日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.184

特別支援学校と肢体不自由教育

 養護学校から特別支援学校への歴史的な転換が行われた平成19年度、これまでの肢体不自由教育で培ってきたものを今後の特別支援学校でどのように生かせるのかについて整理しておきたいと考え、今回の特集を組みました。
まず、特別支援教育における肢体不自由教育への期待について巻頭言をいただいた上で、肢体不自由教育の現状と今後の特別支援学校(肢体不自由)に求められるもの、学校づくりの視点からの留意点等を論説として整理していただきました。次に、肢体不自由児の認知特性に基づく指導、地域への支援に加え、複数の障害種に対応した取組、特別支援学校(知的障害)での取組等を柱にしながら、実践報告をしていたただきました。
盛りだくさんの内容となっていますが、いずれも重要な視点であり、それぞれが本誌一号分の特集テーマとなってもおかしくほどのものです。これらの内容が、全国各地の特別支援学校での肢体不自由教育に貢献できれば幸いです。

(徳永 亜希雄)
 

・巻頭言
特別支援教育時代の肢体不自由教育に期待する

宮田 広善
姫路市総合福祉通園センター所長
・論説
特別支援学校(肢体不自由)に求められるもの
下山 直人
文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課 特別支援教育調査官

特別支援学校における学校づくりと肢体不自由教育
西川 公司
筑波大学付属久里浜特別支援学校校長
・実践報告
肢体不自由児の抱える困難への対応と小・中学校への支援
一木  薫
筑波大学付属桐ヶ丘特別支援学校教諭

特別支援学校における地域への支援と肢体不自由教育
宮岸 尚平
北海道函館養護学校教諭

複数の障害種別に対応した特別支援学校の取組
永田 寛尚
長野県稲荷山養護学校教諭

特別支援学校(知的障害)における肢体不自由教育
前園 孝哉
鹿児島県立大島養護学校教諭
・連載講座
肢体不自由教育におけるICFの活用(2)
徳永 亜希雄
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 企画部 主任研究員
・講座Q&A
施設入所
・取組紹介
大学における肢体不自由のある学生への支援
藤井 克美・水野 暁子
日本福祉大学障害学生支援センター教授
・上肢操作の基礎知識5
食事動作の学習
関内 美奈子
彰栄リハビリテーション専門学校専任講師
・ちょっといい話 私の工夫
立位台のちょっとした使い方の工夫
梅﨑 卓次
静岡県立嘉穂養護学校教諭
・医療的ケアの最前線
医療的ケアを要する生徒の移行支援と特別支援学校の役割
田中 顕一
東京都立町田養護学校教諭
・特別支援教育の動向
学校教育法等の一部を改正する法律の施行に伴う名称等の変更について
徳永  豊
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・トピックス
内閣総理大臣表彰他
真謝  孝
沖縄県教育庁県立学校教育課 主任指導主事
・図書紹介
『肢体不自由のある子どもの自立活動ガイドブック』
・キーワード
学校評価
・読者の声
子供の力ってすごい
桜井 明子
千葉県立袖ケ浦特別支援学校教諭


 二学期最初の給食の時のことです。私が、スプーンでおかゆをAさんの口に入れようとしたところ、Aさんは、右手で私が持っているスプーンの柄をつかもうとするのです。その時、「Aさん、すごい!」とその手を握って叫んでしまいました。Aさんはニコッと満面の笑顔、「ぼく、できるよ」といわんばかりの得意な顔。
 一学期の終わりに、数回スプーンに手を添える学習をしたことを、長い夏休みの後までしっかり覚えていた訳です。それなのに、夏休み明けの最初の給食なので、様子を見ながら食べさせようとした私。
 同じようなことが私の担当しているBさんの自立活動の時間にもありました。Aさんの時と同じように、二学期最初の授業なので無理をしないでゆっくり身体を弛めよう思っていました。Aさんから教えられたこともあるので、「歩く学習をどうしようかな」と考えていた、私の心を見抜いたように、「先生、何分から平行棒で歩きますか」とBさん。またも、子供に教えられてしまいました。
 「○○だから○○だろう」と教師が勝手に判断せず、日々の指導の積み重ねがいかに大事であるか、教師が試みたことを一生懸命取り組もうとする子供の姿に、うっかりしたことはできないという教師の責任の重さ。そして、素晴らしい力をもっている子供たちと同じ時を過ごせることの幸せを実感しています。


次の一歩を踏み出せる理由
湯田 秀樹
青森県立浪岡養護学校教諭


 「あなたを待っている子供たちがいるはずです」。
 初めての異動に緊張していた私に、先輩教員がかけてくれた言葉。特に摂食指導への関心が高かった私は、その取組をさらに進めることへの激励と受け取りました。担当した学級では、摂食指導への保護者の要望もあり、夢中で日々の実践に取り組みました。
 より適切な手立てを見つけ出すためには、生理学的・解剖学的なメカニズム、姿勢や呼吸の安全な管理、種々の感覚刺激の受容、個々に異なる意思表出への柔軟な対応方法など、知識としてだけでなく、実践できる力を身に付けなければなりません。
 また、摂食指導という枠に収まらない、自立活動としての位置付け、根拠に基づく目標設定と評価方法、チームティーチングのあり方、医療との連携など、日々の指導の基盤となっている事柄についても、より重要なこととして理解に努めました。本誌がそんな私の道標になったことは言うまでもありません。
 現在私は、特別支援学校(病弱)に勤務しています。ここにも私を待っている子供たちがいました。
 でも、私の独りよがりのテーマを押し付けるつもりは全くありません。自分の関心だけで進める実践ではなく、チームを組む同僚とともに、子供たちの課題を見極める目をもち、その課題に迫る手立てを正しく判断し、子供たちや家族に的確に提案できるようになりたい、そう思えるようになりました。
 あの先輩教員の一言を、今はそのように解釈し、励みにしています。
■平成19年度総目次
■次号予告
■編集後記