日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.189

授業を豊かにする教材・教具

 私たちは日々の授業の中で、さまざまな教材・教具を活用しています。これは、授業のねらいを達成し、指導の効果を高めるために必要不可欠なものです。

 本号では、授業において、子供たちが活動に取り組むためにはどのような支援を必要としているのか、それを実現するためにはどのような教材・教具が必要なのかなど、単なる教材・教具の紹介ではなく、教材・教具の作成の経緯や活用方法の紹介を通し、授業の在り方や組立て方についても、見直すヒントとしていただきたいと、考えました。

 授業を実り多い豊かなものにするためには、どのような教材・教具をどのように活用していくのがよいのか、さまざまな視点から多角的に見ることのできる目をもちたいものです。

 どんなに素晴らしい教材・教具を作成しても、その時限りのものになってしまってはもったいないです。教材・教具を有効に活用することのできる環境作りについても、合わせて考えるきっかけにしていただければ幸いです。

(矢野 祐子)

 

・巻頭言
授業を豊かにする教材・教具
西川 公司
筑波大学附属久里浜特別支援学校長
・論説
コミュニケーション行動と教材・教具
立松 英子
東京福祉大学社会福祉学部教授

子供の発達と自助具の活用
須貝 京子
大阪発達総合療育センター 作業療法士

ATの活用で広がる授業づくり
金森 克浩
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・実践報告
見る力・聞く力を引き出す教材・教具の工夫
―専門家のアセスメントを受けて―
小山 美穂
東京都立江戸川特別支援学校教諭

重度・重複障害のある児童の遊びを広げる教材・教具の工夫
樋上 良子
広島県立広島特別支援学校教諭


授業に生かす教材・教具の管理と運用
―教材ライブラリーの活動から―
佐伯 英明
石川県立明和養護学校教頭


心の自立につながる「自助具」の取組
―校外の専門家と連携して―
竹永 和久
神奈川県立茅ケ崎養護学校教諭

・連載講座
肢体不自由児の教科指導(3)
個人差の大きい集団での指導
一木  薫
福岡教育大学 特別支援教育講座助教
・講座Q&A
きょうだいへの支援
・施設紹介
身体障害者療養施設「はんしん自立の家」
主体的な暮らしの場を目指して
石田 英子
「はんしん自立の家」施設長
・作業療法の基礎知識5
感覚に課題のあるケース
関内 美奈子
東京都新宿区立新宿養護学校非常勤講師・ 作業療法士
・ちょっといい話 私の工夫
三輪車に乗れるようになった
―見る力と操作する力を高める学習―
西本  彰
熊本県立苓北養護学校教諭
・医療的ケアの最前線
神奈川県の巡回診療型診療所システムに おける看護師・教員の連携
入澤タミ子
埼玉県立熊谷養護学校看護教諭
・特別支援教育の動向
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の取組紹介
長沼 俊夫
新潟県立柏崎養護学校教諭 (前上越市教育委員会指導主事)
・図書紹介
『これからの健康管理と医療的ケア』
『障害の重い子どもの授業づくりPart2』
・読者の声
視点の違いをプラスに
赤星 理恵
佐賀県立北部養護学校教諭


 本校は特別支援学校(知的障害と肢体不自由)で、医療的ケアは看護師のみが実施しています。

 最近、養護教諭からの実践報告という形で校内研修会を開きました。教室の映像も流れ、医療的ケアにかかわった経験のない職員は「あんな素敵な笑顔を見せてくれるのね」と話し、重い障害のある子供たちも一人ひとりが、瞳を輝かせながら学校生活を送っているということが伝わったようでした。

 一方で、ある学級担任は違う視点をもっていました。吸引の依頼を受けた看護師が、その瞬間に保健室をダッシュで跳び出していく場面を見て、「こんなに教室の子供たちのことを思ってくださっていたのかと思うとうれしい」と涙ぐみながら言うのです。子供たちに対するそのような純粋な思いも「異業種間をつなげていく大きな要素なのだな」と、私はこの言葉を聞いて改めて考えさせられました。

 また、ある職員は、「障害種の枠を超えた保護者同士の連携のために、これが何かに生かせないかしら」と提案しました。養護教諭も、「看護師の教室内での動線を考える良い機会になった」との気付きを教えてくれました。立場の違い、経験や背景の違いで色々な見方があるのだと感じた次第です。

 本誌にも、教育関係者にとどまらないさまざまな立場の方からの情報が毎号載っています。これからも目の前の子供たちのよりよい生活のために、たくさんの情報に触れ、視野をしっかりと広げていきたいと思っています。



見える形で表わす
山下 京子
香川県立高松養護学校教諭


 私は抱っこが好き。初めて抱っこしたときに、首を反らせ足を突っ張らせる一瞬もいじらしく、きょとんと抱かれるままの様子もいとおしく、その年度が始まります。

 抱っこがなじんできて、子供の股関節が開き、ゆったりとたて抱きなどできるようになり、好きな歌や活動を知り、一日の水分量や覚醒状態、身体や視線の動きなどを把握できるようになってくるころ、一人ひとりの課題に基づきどのように取り組むのかが定まってきます。この過程では、身近な教員や保護者、自立活動専任教員、理学療法士、作業療法士等の方々の意見を伺いながら、連携して取り組んでいます。

 このところ切に思うのは、この過程を、誰にでも「具体的に見える形で表わす」ことの大切さです。それは次の5点となります。

(1) 把握した実態は表や図で表わすこと(できるだけ標準化された検査の実施)。
(2) 実態から導かれる取組を具体的に挙げること。
(3) 発達段階と年齢、環境とを考え合わせて取組を絞り、生活や学習場面で具体的に展開すること。
(4) その取組を評価すること。
(5)   評価を改善に生かすこと。

 当たり前のことを列記しましたが、「具体的に見える形で表わす」という視点から考えた、これまでの私の実践からの反省です。そして本誌では、「評価と指導」「授業改善と指導案」など、丁寧で具体的な提案が示されており、実践の参考としています。

 いとおしい一人ひとりへの教育がみんなの手で行われるために、先生方と共に、本校の教育を誰にでも具体的に見える形の取組となるようにしたいと思っています。

・トピックス
美術展入賞者決定、シンポジウム開催、セミナー開催
・平成20年度総目次
■次号予告
■編集後記