日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.191

もっと活用できる「個別の指導計画」

 平成11年に告示された学習指導要領改訂では、自立活動及び重複障害児の指導において「個別の指導計画」の作成が明文化され、各学校で「個別の指導計画」の作成が推進されてきました。

 しかし、多くの時間を割いて作った「個別の指導計画」が、日々の教育活動で十分生かされているのかと問われると、首肯しがたいように思います。作ることにではなく、活用することに意義があったはずの「個別の指導計画」。その意義と役割を見直しつつ、教育活動のさまざまな場面で生かすための具体的な取
組を紹介したく、特集を組みました。

 巻頭言と論説では、個を生かした教育や支援から見た「個別の指導計画」、「個別の指導計画」の意義、「個別の指導計画」を生かした授業から説いていただきました。また、実践報告では、「個別の指導計画」を生かしたさまざまな実践をご寄稿いただきました。参考にしていただき、今一度「個別の指導計画」のあり
方を確認して、日々の授業に臨んでいただけたら幸いです。

(竹内 朗)

 

・巻頭言
特別支援学校への期待
佐藤 紘昭
弘前大学教育学部附属教員養成学研究開発センター教授

・論説
「個別の指導計画」の意義と今後の課題
―教員の個人と組織の専門性という視点から―
大沼 直樹
琉球大学教育学部教授

「個別の指導計画」を生かした授業
武田 鉄郎
和歌山大学教育学部教授
・実践報告
「個別の指導計画」を生かした自立活動
鶴 宣彦
長崎県立長崎養護学校教諭 (前 長崎県立佐世保養護学校教諭)

「「個別の指導計画」を授業に生かす視点
―指導のイメージを明確にして授業につなぐ―
根本 健一
福島県立平養護学校教諭
指導計画作成ガイド
―学校評価からみたその成果―
武田 陽子
新潟県立上越養護学校教
「個別の指導計画」を生かす授業づくり
―「授業別指導計画」「授業案」へとつなげる―
門積 敦子
宝塚市立養護学校教諭

・連載講座
特別支援教育コーディネーター(2)
特別支援教育コーディネーターに求められること
保坂 俊行
山梨県立甲府支援学校教諭

・講座Q&A
外部専門家との連携
・人物紹介
コミュニケーションの指導・援助のあり方を求めて
林  友三
元東京都立北養護学校長
・医療の基礎知識2
成長にともなう肢体不自由児の呼吸障害とその対応
石井 光子
千葉県千葉リハビリテーションセンター第一小児科部長
・ちょっといい話 私の工夫
自主的に学ぶ工夫
―温水プールでの自立活動の指導―
工藤 幸一
青森県立青森第一高等養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
保健・医療・教育・福祉をネットワークで支える
―医療的ケア実践セミナー2008 in 京都―
吉田 礼子
東京都立八王子東特別支援学校教諭
・特別支援教育の動向
小・中学校における特別支援教育
―特別支援教室構想の検討―
藤本 裕人
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・読者の声
社会科の授業で大切にしたいこと
稲田 多美子
和歌山県立南紀支援学校教諭


 平成二十年度に、教育実習以来初めて、中学部社会科(歴史)の授業を担当しました。生徒は中学部二年生のA君でした。よくしゃべるものの自分の思いや考えを表すのは苦手です。年々身体機能面の低下が進み、本人は歯がゆい思いをしていると推測されますが、そのことにはほとんどふれません。自分の気持を素直に表さないことと関連があるのかもしれません。

 授業では、歴史的事象に対して「どうしてそうなったのか」「自分ならどうする」と、A君が自分なりに思いを巡らせてみる活動を大切にしたいと考えました。

 1学期、「朝鮮半島の古墳と日本の古墳の出土品が似ているのはなぜ?」と問いかけると「たまたま(そうなった)」でおしまい。渡来人の存在は学習しましたが、問われたことをじっくり考えてみようという意識が希薄でした。でも、「比べてみよう」「予想してみよう」「あなたが○○だったらどうする」という問いを毎回繰り返していくうちに、A君は少しずつ自分の頭に浮かんだ言葉を口にするようになっていきました。2学期、「元の襲来に備えて、A君が執権ならどうする?」と問いかけると、しばらく考えてから「24時間交代で(博多湾を)監視する」と答えるまでになりました。

 「できないことはできない」と諦めてしまう傾向のあったA君ですが、他の場面でも「できるまで粘ってみる」という態度がみられるようになりました。今後も授業や活動の中で、「僕ってなかなかじゃん!」と感じ、「僕はこう思うよ」と主張する力をつけてくれることを願っています。

 
自由な発想で
福田 仲
栃木県立栃木特別支援学校主幹教諭


 以前勤務していた学校で担当していたAさんは、呼吸器を付けているお子さんで、身体を意図的に動かしたり、話したりすることができませんでした。でも、お母さんや私の言葉をよく聞いて、視線や声で自分の気持を伝えてくれます。Aさんのお母さんが、「先生、おもちゃのボタンが押せるんです。ほめたらひと晩中押されて、眠れなかったんです」と、うれしそうに話してくれたのです。

 おもちゃは、自動販売機で買えるサウンドロップという小さなおもちゃです。聞けば、近所の小学生が「これならAちゃんも遊べるよ」と持ってきてくれたそうです。その日は、右手の親指と人差し指の付け根にそのおもちゃを挟んで、私にも実際にやってみせてくれました。

 もともと、課題の中にスイッチ教材を取り入れたいと考えていただけに「これだ!」と、すぐにそのおもちゃをスイッチに改良しました。大好きなアンパンマンのおもちゃとつないで、スイッチを押すと「ぼくアンパンマン、こんにちは」とおしゃべりを聞けるようにしました。これは、大成功でした。自分が親指と人差し指の付け根に力を入れるとスイッチが入り、アンパンマンの声が聞けるという活動は、Aさんの世界を広げてくれました。
  サウンドロップというおもちゃとAさんを結びつけてくれた、大人には思い付かない子供の自由な発想がもたらした世界です。

 私たちは、肢体不自由という言葉に縛られてはいないでしょうか。もっと自由に、柔軟に子供たち一人ひとりの可能性を見直す必要があるのではないでしょうか。小学生の持ってきた200円のサウンドロップが私に大切なことを教えてくれました。

・図書紹介
『輝けきょうの子どもたち ―京都発障害のある子どもの新たな教育の創造―』
『自閉症教育実践マスターブック ―キーポイントが未来をひらく―』
・トピックス
平成21年度金賞・奨励賞決定
第10回自立活動フォーラムin長崎
・お知らせ
第3回肢体不自由教育研究セミナー案内
平成20年度事業報告
■次号予告
■編集後記