日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.195

授業づくりにつなげる実態把握

 教師の専門性が問われ、授業研究が盛んに行われるようになってきました。授業づくりにあたっては、まず、基本となる実態把握を的確に行うことが必要です。そこで、本号では実態把握の工夫と、その実態把握に基づいた具体的な授業づくりについて検討することにしました。

 巻頭言では、飯野先生に授業の基盤となる実態把握を改善するための観点や、実態把握に基づいた目標設定について述べていただきました。論説では、実態把握の具体的な観点や方法について長沼先生に論じていただき、さらに、雲井先生には、障害の重い子供の実態把握において、発達軸とともに学習プロセスの軸を取り入れて学習支援につなげることの必要性を論じていただきました。そして、実態把握を授業づくりに生かした実践報告をしていただきました。

 的確な実態把握を授業につなげ、授業改善を進めるために本特集号を生かしていただければ幸いです。

(吉川 知夫)

 

・巻頭言
授業改善のための「実態把握」を
飯野 順子
元筑波大学教授・元東京都立村山養護学校長

・論説
授業づくりにつなげる実態把握
長沼 俊夫
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
総括研究員


障害の重い子供の実態把握の考え方と指導の展開
雲井 未歓
鹿児島大学教育学部准教授
・実践報告
教員と看護師の協働による支援
田村 美奈
新潟県立はまなす養護学校教諭
(前新潟県長岡市立養護学校教諭)


障害の重い子供における三項関係の形成をめざした実践
―学習到達度チェックリストを活用して―
古山  勝
千葉県立銚子特別支援学校教諭

聴覚に障害のある肢体不自由児の指導
―写真を活用した日記指導を通して―
立木ひろみ
神奈川県横須賀市立養護学校教諭

認知の特性を大切にした授業づくり
星 ひろ子
福島県立郡山養護学校教諭


・連載講座
摂食指導の基本と実際(1)
食べる機能とその発達
阿部 晴美
東京都新宿区立新宿養護学校主幹教諭
・講座Q&A
指導記録簿の記入の仕方
・取組紹介
全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会の歴史と活動
―全国大会を中心に―
佐竹 京子
全国肢体不自由特別支援学校 PTA連合会事務局長
・基礎知識 《見ることの支援1》
子供たちの「見ること」への支援を考える
奥山  敬
東京都立北特別支援学校教諭
・ちょっといい話 私の工夫
博物館と連携した「総合的な学習の時間」における体験的学習の授業づくり
赤星 尚幸
北海道真駒内養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
感染症への基本的対応
有本  潔
島田療育センター 副院長
・特別支援教育の動向
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の研究課題紹介
長沼 俊夫
総括研究員
・読者の声
学習の基盤となる「学習」
絵面 悦子
栃木県立のざわ特別支援学校教諭

 肢体不自由教育にたずさわるようになって、あっという間に一年が過ぎました。肢体不自由教育の中でかかわる子供たちは、知的障害に加え、身体のこと、病気のこと(医療的ケアのこと)、保護者との関係など、知的障害教育に比べると、とてもきめ細かい配慮が必要だと感じています。

 知的障害教育でかかわった子供たちは、基本的に健康で、学習に参加するための身体ができていたと思います。一方、肢体不自由のある子供たちとかかわってみると、学習するにあたっての細やかな配慮が必要で、その配慮自体も「学習」に含まれていると思います。例えば、医療的ケアを受けて(水分補給や痰の吸引など)体調を整えたり、身体を使いやすくできるようポジショニングするなど、それ自体が「学習」となり、学習の基盤となるのです。

 本誌で毎号特集されている「実践報告」によって、実際に子供たちにかかわっている教員の取組に触れることができ、自分自身の指導について振り返るよい機会となっています。

 また、肢体不自由教育にたずさわる中で、身体についての知識も深めていかなければと思っています。平成21年度に掲載された5回シリーズの「医療の基礎知識」は、毎回テーマを絞り、図解も加えて説明されており、とても読みやすく勉強になりました。

 これからも、子供たちの「学習」を大切にできるよう、自分自身も学び続けていきたいと思います。

 
 
学校の力を高めていくために
三浦 友和
北海道函館養護学校教諭

 私は、現在、特別支援教育コーディネーターとして、地域の小・中学校を中心に訪問しています。北海道では、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級に在籍したり、通級したりする子供の人数が、急激に増加しています。このような状態を解決する方策の一つが「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」であると、考えています。

 多くの小・中学校等では、これらの作成に取り組み、なんとか作成しようと学級担任やコーディネーターの先生方がご苦労されている学校がたくさんあります。しかし、作成してもうまく活用できてない実情をたくさん目の当たりにしてきました。

 平成21年度より、私は、「個別の指導計画」作成・充実のため、「個別の指導計画とは何か」という説明から実際の作成までを小・中学校等の先生方と一緒に取り組んできました。「作成してください」や「作成してみてはどうですか」という助言ではなく、一緒に作成のプロセスにかかわることで、子供の実態のとらえ方や適切な指導目標の設定の仕方までを経験的に学びとっていただいています。小・中学校等の先生方からは、「頭の中が整理されたような気がしました」「ようやく見通しがもてました」という言葉が返ってきます。このように、小・中学校等にある潜在能力をうまく引き出すことも、特別支援学校の「センター的機能」を発揮する上で重要な専門性の一つであると考えています。

 就学の場の変更よりも先に、その学校で可能な指導をチームで考えることにより、学校が自立して特別支援教育を行えるものと思います。

 今後も「学校力」または、「地域力」をつけてもらえるような地域支援を、小・中学校等に寄り添いながら行っていきたいと思っています。

・図書紹介
『発達支援と教材教具― 子どもに学ぶ学習の系統性 ―』
『特別支援教育の基礎・基本― 一人一人のニーズに応じた教育の推進 ―』
・トピックス
平成22年度文部科学省特別支援教育関連予算の主要事項の概要、
平成22年度関係研究会の予定
■次号予告
■編集後記