日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.198

地域の特色を生かした交流及び共同学習

インクルーシブ教育の実現に向けて、制度改革等の検討が進められている今、障害の有無にかかわらず、すべての子供にとって意義のある教育活動である交流及び共同学習では、その実践内容の構築がいっそう求められています。

巻頭言では、障害のある子供の保護者の立場より、交流及び共同学習の体験を踏まえ、今後の期待について述べていただきました。論説では、河村先生には交流及び共同学習のあり方について、学習指導要領や国際的な社会の動向にも関連させて、その意義と課題を説いていただき、佐藤先生には、特別支援学校の視点から交流及び共同学習のこれまでの実践を踏まえた上で今後の課題について述べていただきました。そして、実践報告では、各地域や学校の特色を生かした具体的な工夫や児童生徒の学習活動を分かりやすく紹介していただきました。本特集号を参考にして、各学校での実践の成果が広がっていくことを期待しています。

(長沼 俊夫)

 

・写真
がんばってるよ

・巻頭言
交流及び共同学習への期待
中尾まゆみ
佐賀県立金立養護学校PTA会長

・論説
これからの交流及び共同学習のあり方
河村 久
聖徳大学児童学部児童学科教授

交流及び共同学習の工夫と課題―特別支援学校からの発信―

佐藤 正一
東京都立城南特別支援学校長

・実践報告
埼玉県における支援籍の取組
小林 直紀
埼玉県教育局県立学校部特別支援教育課指導主事

居住地校交流から地域で生きる力をはぐくむ―部活動を通して―
河口 朱実
福井県立福井養護学校教諭

「楽らくスタイル」で社会参加
―地域と心をつなぐ「おしゃれで機能的な衣服」の制作を通して―
山口 美香
愛知県立一宮養護学校教諭

肢体不自由特別支援学級での「交流及び共同学習」の取組
古賀 伸一
福岡県久留米市立水縄小学校教諭

・連載講座
ことばの指導に生かすAAC(1)
AACの活用についての基本的な考え方と評価
吉川 知夫
東京都立城南特別支援学校主任教諭
・講座Q&A
研究授業後の協議会の進め方

・連載講座
富山県高志通園センター
地域と連携した総合的な療育をめざして
宮森加甫子
富山県高志通園センター園長
・基礎知識 《見ることの支援4》
学校環境における視覚的な手がかりの工夫
奥山 敬
東京都立北特別支援学校教諭
・ちょっといい話 私の工夫
笑顔あふれる「音楽劇遊び」
小栗 逸子
兵庫県三田市立富士小学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
地域療育施設における医療的ケアの取組
丸山 百代
東京都杉並区立こども発達センター看護師
・特別支援教育の動向
障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」
―障がい者制度改革推進会議の経過から―
長沼 俊夫
国立特別支援教育総合研究所総括研究員
・図書紹介
『肢体不自由児の教育』
『指導・援助の基礎・基本 障害のある子供のコミュニケーション』

・読者の声
 
肢体不自由教育の専門性
井原 誠
岐阜県立関特別支援学校教諭

 本校は、岐阜県下に2校ある特別支援学校(肢体不自由)のうちの1校として、以前より相談活動や研修会の開催など地域のセンターとしての役割を果たしてきました。しかし、特別支援学校の総合化が進む中、各地域に肢体不自由教育部門が新設されることに伴い、本校から肢体不自由教育のベテラン教師が転出していくことが多くなってきました。これまで各学部で中核的な役割を果たしてきた教師が転出する中、今まで以上に本校における「肢体不自由教育の専門性の向上」ということが大きな課題になっています。

 私は、平成21年度より研修部所属となり、職員研修を担当してきました。本誌の論説や実践報告、連載を読むことで、「肢体不自由教育の専門性」の幅広さ、奥深さを知ることができましたが、一方で、このような大きな課題を前にして、私自身の乏しい専門性が際立ち、思い悩むこともありました。

 そんな折に、本校に埼玉県立越谷特別支援学校の野村春文先生を講師として招き、摂食指導研修会を開催する機会がありました。摂食指導のみならず、静的弛緩誘導法の専門家でもある野村先生のお話は、幅広い知識と確かな実践の裏付けがあり、本校の若い職員も目の色を変えて耳を傾けていました。実践や研修を通したつながりを大切にしながら、共に学び続けていくことにより、「専門性」が根付いていくのではないかと思うようになりました。




Aさんが教えてくれたこと
北原 百代
静岡県立富士特別支援学校教諭

 数年前に担任していたAさんは、心理的なことが原因で嘔吐を繰り返す子供でした。特に環境の変化に弱いので、年度末の3月に「先生は替わってもお友達は一緒。学校は楽しいよ。」という内容のDXDを作りました。Aさんは春休み中に毎日それを見てくれていたそうです。4月になり、担任が替わりました。「先生はAさんと一緒のクラスじゃないけど、いつでも会えるよ。」と話をしました。新しい担任ともすぐに仲良くなり安心していたのですが、暫くして吐くようになりました。

 1か月後、私はAさんのお母さんから「Aが吐き始めたのは、給食に先生(私)が来なくなってからだよ。」と聞かされ、強い衝撃を受けました。私がAさんのところへ行かなくなったことと、Aさんの嘔吐が関係あるとは、当時の私は考えもしませんでした。

 前年の秋に転校してきたAさんは、担任となった私のことを頼りにしていました。それゆえ、4月になり担任が替わったという現実を理解できず、「なぜいないの?」という、裏切られた気持だったのでしょうか。私はAさんのそんな思いを想像することができませんでした。Aさんにとって、私がいないことがどんな意味をもつのか理解していなかったのです。新しい担任と良い関係が出来ていたので、私のことはじきに忘れると思っていました。

 Aさんに「ごめんね。」と謝ると笑顔を見せてくれました。「いいよ、許してあげるよ。」と言ってくれたように感じました。間もなくAさんの体調も良くなりました。

 子供の心を知ることは難しいですが、注意深く子供と付き合っていきたいと思います。そのことを教えてくれた、Aさんありがとう!

・トピックス
ねむの木賞・髙木賞決定、研究紹介、第35回日本肢体不自由教育研究大会予告
■次号予告
■編集後記