日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.207

見ることや聞くことに困難のある子供の指導

 肢体不自由教育に携わる教員は、障害の特性に関する知識や指導における基本原則を理解していることが必要です。

 本号では、見ることや聞くことに困難のある子供たちにどのような指導・支援が必要なのか、授業においてどのような配慮が必要なのかについて特集しました。

 巻頭言、論説、実践報告において執筆された先生方は、一貫して認知発達の順序性を尊重し、障害の特性を考慮しながら、子供の「分かる、できる」を可能にする指導のポイントを的確に押さえてほしいと述べられています。実践報告には、発達を促す教材・教具を準備し、子供の分かる環境を設定するなど子供のもっている力を引き出す指導・支援の工夫の秘訣が詰まっています。

 読者のみなさんにとって、本特集が、子供一人一人の「知りたい、分かりたい、認められたい」という思いに応える授業づくりをする、という私たちの原点に立ち返る契機となればうれしく思います。

(尾普@至)

 

・巻頭言
見ることや聞くことの困難さを支援するために
米山 明
心身障害児総合医療療育センター小児科医長

・論説
見えにくさ・きこえにくさのある子供の生活と学びを支える環境と支援
齊藤 由美子
国立特別支援教育総合研究所主任研究員

発達から捉える聴覚の働きと特徴
木村 順
療育塾ドリームタイム作業療法士

・実践報告
重複障がい児のコミュニケーションを豊かにする指導 
―児童一人一人に配慮し、感覚・知覚に働きかける教材の工夫―
奥山 圓
東京都立小平特別支援学校教諭

触覚を用いて探索的な移動の力を育てる指導
井上 和幸
鳥取県立皆生養護学校教諭

視覚的配慮の必要な子供への分かりやすい教材の工夫
―切り絵風シアターによる授業―
名井 あや
大阪府立箕面支援学校教諭
(前大阪府立交野支援学校教諭)

・第三十六回研究大会を終えて
杉野 学
大会会長
(東京都立多摩桜の丘学園校長)


・連載講座
動作法の理論と実際(3)
動作法を生かした自立活動の授業を創る
宮普@ 昭
山形大学地域教育文化学部教授

・講座Q&A
福祉サービスの利用

 
・取組紹介
医療・福祉に工学の力で貢献したい
田村 宏樹
宮崎大学工学部環境ロボティクス学科准教授
・キャリア教育の基礎知識3
ライフステージにおけるキャリア教育
─高等部の段階─
朝日 雅也
埼玉県立大学教授
・ちょっといい話 私の工夫
身体機能向上や体力づくりをねらった支援
加地 信幸
広島県立庄原特別支援学校教諭
(前広島県立広島特別支援学校教諭)
・学校保健と医療的ケアの今
学校における医療的ケアの今後
北住 映二
むらさき愛育園長
・特別支援教育の動向
「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための
特別支援教育の推進(報告)」の概要
長沼 俊夫
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
 
・読者の声
 
同僚や先輩のような存在
霜田 彩
新潟県立柏崎特別支援学校教諭

 平成16年度、私は初めて肢体不自由教育に携わりました。何をすればよいのか見当もつかず、何もしていなくても放課後になると疲れてぐったりとしていたのを覚えています。

 同僚や先輩に基礎的なことから実践的なことまで、毎日教えてもらっていました。そんな中で先輩から、この「肢体不自由教育」誌を紹介され、藁をもすがる思いでページを開いていました。

 その後、特別支援学校(知的障害)での勤務経験を経て、平成22年度より柏崎特別支援学校で勤務をすることとなりました。

 肢体不自由のある児童の担当となり、再び本誌のページを開くこととなりました。本校は特別支援学校(病弱)ですが、論説や実践報告は、障害種別が異なっていても参考になる視点がたくさんあることに気づきます。
  また当時のバックナンバー誌に再び目を通すと、今でもとても役立つ記事に出会えたり、当時は何気なく読んでいた実践報告のとても深い意義に気づいたり、新たな発見をすることもあります。

 現在の勤務校では、ティームティーチングではなく、独りで学級担任をしていますが、本誌で目にする記事が様々な情報を与えてくれたり、考えを整理してくれたりします。

 また、気持をほっとさせてくれる記事もあり、私にとって本誌はまるで同僚や先輩のような存在となっています。


「参加する」ということ
加納 豊彦
山口県立防府総合支援学校教諭

 「人は常に発達する存在。生涯にわたって学習し続けるものであり、そのことが生活の充実や張りにつながる」。社会教育主事講習で学んだ言葉です。

 多くの人が同好会、カルチャースクール、少年団など学校以外で行われる様々な文化的・体育的活動に参加し、仲間と出会い、生活を楽しんでいます。

 防府総合支援学校の子供たちも、休日に各種団体の主催する活動に参加することがあります。休日明けには「お祭りの準備をしたよ。」「みんなで果物を収穫して食べたよ。」などと教えてくれます。

 団体の広報誌には、子供たちの笑顔がいっぱいです。果実の香りや手触りなど、五感を通しての新しい刺激に素直に感動する、素敵な表情もあります。また、友達や仲間と過ごした楽しさ・心地よさから、「次も行きたい」と参加意欲を高めている子供もいます。子供たちが、人と人とのかかわり合いの中で成長しているのだなと感じます。

 一口に「活動」といっても、様々な内容があります。子供の実態によって、また活動の場によって、内容は様々に変化します。家族とのかかわりそのものが、成長のものさしで大きな意味をもつ子供もいます。

 家族や仲間と何らかの活動に参加し、人は自分の居場所を実感できます。また、楽しみや役割があることで幸せを感じます。この幸せを感じることこそが「発達」であり、生活の充実ではないでしょうか。

 障害のある子供への教育支援を進める際には、ともすれば個別の学習課題の克服が中心になりますが、子供たちの社会参加への夢を大切にして、豊かなかかわり合いの学びを積極的に実践していきたいと思います。

 
・トピックス
第29回障害児摂食指導講習会 本研究会評議員を委嘱
 
■次号予告
■編集後記