日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.215

一人一人の目標に迫る集団指導

 
  特別支援学校(肢体不自由)には、肢体不自由に加えて、知的障害、視覚障害、聴覚障害などを併せ有する子供たちが多く在籍しています。また、近年の特別支援学校においては知肢併置校が増え、今まで以上に実態に開きのある子供たちが一緒に学ぶ機会が増えてきています。
 授業を組み立てる私たち教員の立場からすると、このような実態の開きが大きい集団への指導は、一見すると困難に感じられるかもしれません。
 しかし、今回の特集「一人一人の目標に迫る集団指導」の実践報告からは、集団指導における様々な手がかりが伝わってきました。これらの実践は、各学校の先生方の丁寧な実態把握と指導の工夫がなければ、成果が上がらなかったと思います。また、それ以上に一緒に学ぶ「友達」の存在も、子供の成長に大きな影響を与えていました。
 本特集号が、新年度を迎えた先生方の新たな学級運営や授業づくりの参考になれば幸いです。

(保坂美智子)

 

・巻頭言
一人一人を大切にし、子供同士がつながる集団授業とは
河野 一郎
前山梨県立甲府支援学校長

・論説
個々の子供の成長を描く実態把握
一木  薫
福岡教育大学特別支援教育講座准教授

一人一人のできることを生かして育てる集団指導
田村 順一
帝京大学教職大学院教授


・実践報告
運動機能の実態に幅がある集団における体育科の授業の工夫
―「こまどりシュートゲーム」の実践を通して―
今井智恵子
富山県高岡市立こまどり支援学校教諭


肢体不自由と自閉症を併せ有する生徒のコミュニケーションの指導
片小田あゆみ
福岡県立小郡特別支援学校教諭


個別の実態に配慮した音楽の授業実践
貴多 章紀
大阪市立光陽特別支援学校教諭


「作業」の授業における障害の特性に応じた指導の工夫
―教材・教具の工夫を通して―
丸山 晶子
北海道鷹栖養護学校教諭
(前北海道旭川養護学校教諭)



・連載講座
学習到達度チェックリストとその活用(1)
チェックリストの概要と肢体不自由教育の課題
徳永  豊
福岡大学人文学部教授
・講座Q&A
聴覚に障害のある子供の音楽指導

・活動紹介
日本でいちばん働きやすい会社
―職場がおうちへやってきた―
津田  貴
OKIワークウェル 取締役社長
・基礎知識
障害児・者を取り巻く国内外の動向 1
目まぐるしく変化するわが国の障害者施策
朝日 雅也
埼玉県立大学教授
・ちょっといい話 私の工夫
医療的ケアが必要な子供への授業の工夫
―体調に合わせた活動の設定と看護師との連携―
渡邊 朋子
福島県立平養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
口腔ケアの必要性と効果について
加藤  航
ティーアンドケー株式会社統括部
・特別支援教育の動向
インクルーシブ教育システムの構築に向けた国の取組
分藤 賢之
文部科学省初等中等教育局
特別支援教育課特別支援教育調査官
 
・読者の声
 
思いが伝わること
今  孝仁
前静岡県立静岡南部 特別支援学校教諭

 私が担当した中学部1年生の学級は、教科等を合わせた指導を多く取り入れています。発声や教師の手を引くことなどによって、思いを伝えようとする生徒たちが在籍していました。そのような生徒たちと関わり合うことを通して、「自分の思いが伝わることのすばらしさ」について考えることができました。
 年度当初は戸惑いの連続で、目を合わせて声を上げる生徒の様子から、「何かをして欲しい」という要求は伝わるのですが、それがどのような要求なのかをくみ取れず、応えてあげられないもどかしさを、常に感じていました。
 ある時、生徒がムズムズと身じろぎをしていたので、「尿意を感じているのかもしれない」と思いトイレに連れて行くと、生徒の顔がほころび、トイレでの排尿も成功しました。普段はパットに排尿していたので、「トイレに行きたい」という要求に、私は全く気づかないでいたのです。自分の思いが伝わったときの笑顔を見て、生徒は伝わらないもどかしさを常に感じていたのだ、と思いました。生徒の思いをくみ取ることができたうれしさとともに、思いが通じ合うことの大切さを感じました。
 本誌には、特別支援教育に関わる教員として、生徒と向き合い、生徒がよりよく生きていくために何をすべきかを考えるヒントや手立てがたくさん盛り込まれていると思います。これからも、本誌を参考にしながら、教員としての感受性を豊かにし、思いが認められるすばらしさを生徒たちに伝えていきたいです。


得意なこと、みーつけた

岩田 淑子
青森県立八戸 第一養護学校教諭

 本校に在籍する児童生徒は、肢体不自由があっても、思いや豊かな感性をもっている子供たちです。その良さを発揮して、地域活動や社会参加の場を広げてほしいと考え、地域資源を活用しながら、その
場を学校内・外に求めてきました。その一つが「車いすダンス」です。
 本校では、平成22年度から「車いすダンス協会(静岡県支部)」の先生方に、年2回体育の授業の中でダンスの指導をお願いしています。最初の授業は「音楽に合わせて楽しく踊ってください」という指導で、子供たちは音楽に合わせて自由に回ったり、ポーズをとったりして、ダンスを満喫していました。
 初年度の指導が終わる時に先生から、「みんなで静岡県障害者スポーツ大会に出てみない?」というお誘いがありました。生徒たちは「自分も大会に参加したい」と保護者に訴え、それに向けた練習会に参加するようになり、23年の大会には、「車いすダンス」に初挑戦しました。翌年の「わかふじ大会」への参加者は、「車いすダンス」を含め4種目、延べ11名(全校児童生徒の50%以上)となりました。
 また、24年度には、障害のある人たちが自分の特技を見てもらう催しである「ふじのくに☆チーム輝きワールド」に、参加しました。参加した保護者からは「身体のコントロールが困難な我が子が、決めポーズのときには、しっかりと右手を上に伸ばしていました」「親子で楽しめるものを見つけました」等の声が聞かれました。教員は休日を返上しての取組でしたが、ダンスの授業がきっかけとなり、本人だけでなく保護者にとっても、ダンスが「継続できる趣味」となった、と感じた瞬間でした。


・図書紹介
・トピックス
 
■次号予告
■編集後記