日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.218

表現力を育てる授業

 
 子供から大人まで、どんな人であっても、自分の思いや感じていることを表現し、それを受け止めてもらえる喜びは、とても大きいものです。子供たちには、その喜びをたくさん味わって育っていってほしいと思います。
 本特集号は、子供たちの表現する力をどのように引き出していけばよいのか、を考えました。 
 論説では、子供たちが表現する、ということに関しての意味や、具体的な方法を述べていただきました。実践報告では、絵で、造形で、音で、身体でなど、様々な方法で表現を引き出した実践例を、紹介していただきました。どの実践も授業の中で子供が感じていることをくみ取り、それを形にしていくようにして、本人も周りの人も確認できるように支援しているところが、とても印象的な報告でした。
 このような経験を積み重ねることで、子供たちの学校卒業後の自立と社会参加を促す力をつけることにつながることを、願っています。

(尾﨑 美惠子)

 

・写真

・巻頭言
才能を育てる
 ―表現活動を通して―
重光  豊
天才アートミュージアム 副理事長
元京都市立呉竹総合支援学校長

・論説
子供のいきいきとした表現を引き出すために
松原  豊
こども教育宝仙大学こども教育学部教授

日常の中で光るものに気付くこと
土屋 明之
中部学院大学短期大学部幼児教育学科特任教授
(元岐阜県立関特別支援学校長)


・実践報告
表現する力を引き出す美術の授業
 ―個別の障害に応じた絵画指導の実践―
珥V 俊郎
福島県立郡山養護学校教諭


音楽を活用し表現力を高める
 ―障害の重い子どもの授業―
野上智寿子
千葉県立仁戸名特別支援学校教諭


子どもたちの思いを引き出す身体表現活動
 ―ダンスの指導を通した取組―
楢山 真規
北海道拓北養護学校教諭


書で表現する力を引き出す指導
成田 隆司
青森県立青森第一高等養護学校教諭



・連載講座
学習到達度チェックリストとその活用(4)
目標設定のためのチェックリストの使い方
徳永  豊
福岡大学人文学部教授
・講座Q&A
合理的配慮

・活動紹介
地域社会と連携した総合的な療育を目指して
―「ともに生きる」地域の支援とは―
村  一浩
杉並区立こども発達センター所長
・基礎知識
障害児・者を取り巻く国内外の動向 4
障害者雇用促進施策をめぐる変化
朝日 雅也
埼玉県立大学教授
・ちょっといい話 私の工夫
絵本を総合的に楽しむ
―「はらぺこあおむし」を題材とした実践―
藤﨑 里子
大阪府立茨木支援学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
学校でつくれる「キューピー人形を活用した研修用教材」
山口 純子
埼玉県立宮代特別支援学校教諭(看護教員)
・特別支援教育の動向
「全肢P・校長会合同研究大会(愛媛大会)」報告
坂 ますみ
全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会会長
 
・読者の声
 
肢体不自由教育と応用行動分析
二階堂 哲
茨城県立北茨城特別支援学校教諭

 10年前、肢体不自由児を対象とする特別支援学校に勤務していた私は、肢体不自由教育の専門性について悩んでいました。色々と勉強しているときに、ポール・フーラ博士が1949年に発表した論文の内容を知りました。
 医者から何も新しいことを学習することができないと考えられていた「植物状態」の少年に対して、そのような状況にある少年でもオペラント条件づけの学習ができることを、この論文は証明していました。
 40分程度の4回のセッションを通じて、ほとんど動かなかった右手を垂直に挙げ、1分間に3回という、ミルクを飲み込むのにちょうどよい割合で、砂糖入りの温かいミルクを飲ませてもらうことを、少年は学びました。4セッション目には、ミルクを予期しているようにさえ見えたそうです。
 肢体不自由教育には、子供への愛情をベースとして、その上に運動機能や摂食機能などの身体機能や発達のことなど、様々な知識・技術が必要だと思います。そしてこの論文が示したように、応用行動分析も、子供の学習を保障するために役立つ知識と技術を提供してくれる1つだと考えています。私は応用行動分析を学ぶことで、子供がどうすれば学習できるようになるか、以前より前向きに考えられるようになりました。
 まだまだ不十分な私の実践ですが、少年の可能性を信じて支援したフーラ博士のように、私も子供一人一人の実力を十分に引き出せるよう励んでいきたいと思います。


特別支援教育について学び合う

矢野 有吾
奈良県立奈良養護学校教諭

 私が勤務する奈良県立奈良養護学校は、毎年8月に奈良市内にある特別支援学校、地域の特別支援学級の教員と共同で、「特別支援教育夏期合同研修会」を開催しています。特別支援教育について学び合う場として、持ち寄った教材の展示の他、午前中に実践的な10種類のワークショップに取り組み、午後には設定されたテーマごとの6つの分科会で情報交換をしています。
 ワークショップと分科会は、各学校と特別支援学級の教員が持ち寄った企画で構成されます。各参加者は、日々の実践の中で、「こんなことが知りたい」「こんなことで困っている」といった自分自身の様々な研修のニーズに応じて、参加するワークショップと分科会を決めます。
 私は、ワークショップの1つを企画しました。私自身がどうしたらよいか困っているけれど、何を糸口に解決していけばよいかも分からない体験を思い出しながら、どのように進行すれば、参加者の皆さんが「自分ならこう考える」といった意見を出し合い、ヒントを得られるような企画にできるかを、一番に考えながら運営しました。
 教員同士が交流し、学び合うことで今後の実践に何らかのヒントを、土産として持ち帰ることができれば、研修会は、意義があったということになると思っています。
 今後も、「ちょっと知りたいことがあるからいってみようかな」といった、気軽な気持で参加し、結果として、子供たちとの関わりに生かしていけるような、そんな研修会であればよいな、と思っています。


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