日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.224

個別の指導計画と授業

 今回の特集の論説で阿部先生は、個別の指導計画を授業づくりに生かすことは、「児童生徒のどのような学びを保障するための授業をつくるのかを常に問い続ける、私たちの教師としての矜持にかかる課題なのです。」と述べています。
 本号では、長野県花田養護学校における音楽の授業で盲聾の重複障害のある児童に対する主体的な活動の工夫や、静岡県立東部特別支援学校における上肢にまひがある生徒に対する自分で修学旅行の発表ができる環境設定など、児童生徒本人の願いを含んだ実態を的確に捉えて、学習活動を作り上げた事例を集めました。
 個別の指導計画というと、とかく書式が注目されますが、指導の土台にある先生方の児童生徒への思いが読者の皆様に伝われば幸いです。

(保坂 美智子)

 

・巻頭言
生きた個別の指導計画を作成し、授業に活かそう
元木 哲哉
山梨県立ふじざくら支援学校長

・論説
個別の指導計画を再考する
長沼 俊夫
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所総括研究員

学ぶ楽しさを生み出す授業づくりに生かす個別の指導計画
阿部美穂子
北海道教育大学教育学部釧路校教授

・実践報告
児童一人一人が主体的に活動するための支援のあり方
─小学部高学年音楽の授業から─
小林里恵子
長野県花田養護学校教諭

個別の指導計画とICF関連図を活用した指導
─生徒の願いを叶えるタブレット端末の活用─
佐藤 保寿
静岡県立東部特別支援学校教諭

個別の教育支援計画と個別の指導計画の活用について
廣野 勇介
熊本県立苓北支援学校教諭

自立活動における実態把握と授業づくり
松本 志乃
広島県立広島特別支援学校教諭


・連載講座
タブレットPCを活用した指導(5)
タブレットPCから次につなげる活用
新谷 洋介
国立特別支援教育総合研究所
教育情報部研究員
・講座Q&A
障害者差別解消法

・基礎知識
子どもの摂食嚥下障害を支援するための基礎知識 5
摂食嚥下障害への対応と問題点
田角  勝
昭和大学医学部小児科教授
・ちょっといい話 私の工夫
校外学習で生徒の振り返りを大切にした指導
―中学部の準ずる教育課程での取組―
大迫 隆広
鹿児島県立鹿児島養護学校教諭
・特別支援教育の動向
第61回全国肢体不自由教育研究協議会 長野大会
五味 浩一
第61回全国肢体不自由教育研究協議会長野大会実行委員長
長野県花田養護学校長

全国肢体不自由特別支援学級調査
徳永亜希雄
国立特別支援教育総合研究所
主任研究員
 
・読者の声
 
自立活動の学びって何だろう
川野 実由紀
静岡県立中央特別支援学校教諭

 特別支援学校(肢体不自由)で、高等部1年生の4名の生徒の学級担任をしています。特別支援学校(知的障害)の各教科等を合わせた教育課程で、作業学習、生活単元学習など、集団での学び合いを大切にしています。
 週に2時間、自立活動の時間があります。1時間はアサーショントレーニングのテキストを用いて、人間関係の形成や心理的な安定などに関する学習です。そしてもう1時間は、身体の動きに関する学習です。
 生徒と自立活動について話したことがあります。「自立活動って他の時間と違う。他の授業は先生が前に立っているけど、自立活動は自分って感じがする。」
 自立活動の時間は自分の気持や考え方、そして身体の動きに向き合う学習です。みんなで一緒にたくさんの製品を作ったり、一つの文章に向き合ったりと、集団で各教科等の目標に向かって前進していく作業学習や国語などと比べ、彼らも自立活動との違いを感じているようです。
 授業の最後に、生徒が、「歩行練習をしました。足が高く上がって驚きました。」と発表したことがあります。生徒は自分の動きの可能性を発見しています。私は、生徒について新たな発見をすることが増えるとともに、自立活動の指導の可能性も感じます。自立活動の指導が、生徒の生活における姿勢や動作に変化をもたらすにはまだ時間が必要です。しかし、生徒が自分自身の変化や可能性に気づくことは、生活や学習上の課題解決に向けた大切な一歩だと思います。


自己有用感について

矢内 瞳
千葉県立野田特別支援学校教諭

 本校は、千葉県の北西部に位置する野田市にある特別支援学校です。特別支援学校(知的障害)ですが、肢体不自由や視覚障害、聴覚障害など、多彩な障害を併せ有する児童生徒が在籍しています。医療的ケアが必要な児童生徒も在籍しており、一人一人の教育的ニーズに応える支援や指導を行う必要があります。
 平成27年度、本校では「自己有用感」を体験的に積み重ねていくことを目標に掲げています。特に肢体不自由のある児童生徒の場合には、活動が制限されてしまうことや、教師が過剰な支援をしてしまうことがあり、どのように自己有用感を育てていくかが、課題であると感じています。
 先日、本校の文化祭である「のだとくフェスタ」を行いました。「つなげ みんなの笑顔 楽しまないと もったいない!」をスローガンに、児童生徒と職員が一丸となって、劇の発表や販売会に取り組みました。文化祭は児童生徒の活躍の場であり、一人一人の自己有用感について考える良い機会だと思います。しかし、毎日の指導ではじっくりと考えて実践できているのか疑問に思うこともあり、意識して取り組んでいかなければと反省しています。そのためには、普段から児童生徒の実態把握を行い、一人一人に合った課題設定をし、自分の力でできたという達成感、成功体験を増やしていきたいと考えます。また、少し難しいと思う課題でも、教師が「できるよ、大丈夫!」と励ましながら取り組むと、少しずつできるようになり、自己有用感につながると考えます。
 本誌の記事や情報を活用し、児童生徒一人一人が自己有用感を高められるように、日々の授業や関わりを大切にしたいと思います。


・図書紹介
・平成27年度総目次
 
■次号予告
■編集後記