日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.231

自立活動の展開

 肢体不自由の子供の指導にとって、自立活動の重要性は言うまでもありません。本号では、自立活動の指導の基本的な考え方を再確認するとともに、優れた実践報告を通して、自立活動の指導の充実が図られることを期待して特集を組みました。
 論説では、古川先生に個別の指導計画の作成をはじめ、自立活動の指導における基本的な考え方を整理していただきました。川間先生には、自立活動の指導の評価について論じていただきました。実践報告では、指導にあたっての大事な視点や、学校組織としての指導の工夫等、参考になる取組が報告されています。巻頭言の宮﨑先生からは、新たな研究動向やICFを踏まえた自立活動の在り方が提言されています。
 本特集号を参考に各学校で自立活動の指導の充実が図られ、一人一人の子供にとっての自立につながることを願っています。

(吉川 知夫)

 

・写真
ハンドサッカー大会に向けて みんなで練習しています

・巻頭言
肢体不自由教育と自立活動
宮﨑  昭
山形大学地域教育文化学部教授

・論説
自立活動の指導の基本的な考え方
古川 勝也
西九州大学子ども学部教授

自立活動の指導における評価
川間健之介
筑波大学人間系教授

・実践報告
障害特性を考慮した自立活動の指導
 ―触覚防衛反応、視知覚認知困難に焦点をあてた実践―
小野 隆章
岡山県立岡山支援学校教諭

個別の指導計画から出発した自立活動の授業
髙野 久恵
北海道夕張高等養護学校自立活動教諭

コミュニケーションの学習に焦点をあてた自立活動の指導
刀弥 龍樹
山口県立萩総合支援学校長門分教室教諭

ADSシステム、自己チェックシートによる自立活動の専門性向上の取組
楠 大智郎
大阪府立箕面支援学校指導教諭



・連載講座
教科指導における障害特性を踏まえた指導・支援のコツ(2)
 「まとまりをつかむ」「関係性をつかむ」「まとめる」ことに重点を置いた国語科の指導
田丸 秋穂
筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭
・講座Q&A
片まひがある子供の指導

・コミュニケーション指導の基礎知識 2
初期コミュニケーションの評価
吉川 知夫
国立特別支援教育総合研究所主任研究員
・ちょっといい話 私の工夫
支援ツールについて、子供と語り共に考える
日当 勇紀
青森県立八戸第一養護学校教諭
 
・読者の声
 
重度・重複障害の児童生徒への読書指導
豊田 まりえ
栃木県立わかくさ特別支援学校教諭


 本校は、小・中学部合わせて28名の児童生徒が在籍する小規模校です。創立40周年を迎えた今、児童生徒の障害は重度・重複化しています。
 図書室には沢山の蔵書がありますが、貸し出し冊数は伸び悩んでおり、多くの教師が、「児童生徒の知的障害が重度であるため、字を読んだり図書の内容を理解したりすることが難しい」「上肢に麻痺があり、自分から図書に手を伸ばしたりページをめくったりすることが難しい」「見えにくさや聞こえにくさを併せ有している」等の読書指導での課題を感じていました。
 そこで、絵本の読み聞かせや地域の読み聞かせボランティアによる読み聞かせ会などの取組を重ね、読書活動の活性化を図っています。一部では読み聞かせを毎日実施する中で、児童が絵本に触れたり、読んでほしい絵本を教師に手渡したりすることが増えました。
 読み聞かせ会では、事前に打ち合わせを重ね、図書の提示の仕方を一緒に検討したり、小集団で実施するようにしたりしたことで、児童生徒一人一人が読み手や絵本に注目できるようになりました。また、これらの取組は、読書指導に悩む教師にとっても、「この図書なら児童生徒が楽しめそう」と思える図書に出会うきっかけになり、授業の活性化に繋がりました。
 これからも、読書指導を通じて豊かな情操を育み、生き生きと社会参加できる児童生徒を育成していきたいと思います。


本物の体験

岩松 直美
佐賀県立金立特別支援学校教諭


 本誌が届くと、以前参加した国立特別支援教育総合研究所の専門研修を思い出します。研修では、現在の特別支援教育の流れ、知識、技術等を学ぶことができました。本誌からも同様に多くの刺激と知識を頂いています。
 私の勤務校、佐賀県立金立特別支援学校は、県内唯一の肢体不自由教育の単一校です。今年で開校50周年を迎えます。
 私は小学部で学級担任をしています。大切にしてきたことの一つに「本物の体験」があります。秋の果物を食べたり、中庭のどんぐりを拾ったり、本物を五感で感じることは何にも代え難いものと思います。しかし、体験することが難しい場合も多く、特に熱気球の搭乗体験は、ほとんどの子供が未経験でした。佐賀では毎年バルーンフェスタが行われます。世界中からバルーンが集まり、空を彩ります。小学校では、運動場に着陸したバルーンへ子供たちが駆け寄り、乗せてもらうこともあります。けれども、肢体不自由のある子供にとってバルーンとは遠くから眺めるだけのものでした。それが昨年、地元のバルーンチームの協力を得て、搭乗体験が行われました。目を輝かせて見上げる子、「楽しかったね。」と何度も言う子、バスケット内で感極まった声を出す子、様々なことを得た一日となりました。
 新しい学習指導要領等改訂のポイントの中に、「障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実」があり、肢体不自由のある子供は、「体験的な活動を通した的確な言語概念の形成」が挙げられています。肢体不自由だからといって、体験や活動が制限されないよう、今後も子供と共に多くの体験をしていきたいと思います。


・図書紹介
・トピックス
 
■お知らせ
■次号予告
■編集後記