日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.233

各教科の授業の工夫

  平成29年3月告示の小・中学校の新学習指導要領において、肢体不自由である児童生徒に対する各教科の指導上の配慮事項が記されました。
 本特集では、最初に分藤先生から学習指導要領改訂の基本的な方向性を踏まえた各教科の指導に関して、重要な事項を述べていただきました。それをうけて、長沼先生からは、新小・中学校学習指導要領及びその解説と、新特別支援学校小・中学部学習指導要領及びその解説を引用しながら、指導の際の配慮や工夫について整理していただきました。
 実践報告では、目標設定、実態の把握及びICT活用と、それぞれ違った角度から各教科の指導を紹介していただきました。そして、各教科の学習に使いやすい教材・教具について、指導の工夫集として載せました。
 各教科の指導に、本号を活用していただけると幸いです。

(尾﨑 美惠子)

 

・写真
学校は楽しいことでいっぱいだ!

・巻頭言
養護学校の思い出
金重 泰行
株式会社ケアカンパニー代表取締役
(東京都立光明養護学校卒業生)

・論説
新学習指導要領における各教科の指導
分藤 賢之
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
特別支援教育調査官

肢体不自由児における各教科の指導のポイント
 ―小・中学校の各教科に準じる教育課程を中心に―
長沼 俊夫
日本体育大学体育学部教授

・実践報告
目標設定の根拠を明確にした授業改善
―チェックリストと生活年齢・地域生活の視点から―
小倉 靖範
北海道真駒内養護学校教諭

教科指導における実態把握と授業実践
─「CAN−DOリスト」の作成を通して─
渡邉 万里
福島県立郡山支援学校教諭

授業の工夫に生かすICT活用指導力の向上を目指す取組
―児童生徒が分かる授業づくりを通して―
相  幸代
千葉県立長生特別支援学校教諭

・資料集
肢体不自由児の各教科の学習を支える指導の工夫
編集委員会



・連載講座
教科指導における障害特性を踏まえた指導・支援のコツ(4)
 観察・実験を中心とした理科の授業における学習上の困難と指導の工夫
小山 信博
筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭
・講座Q&A
肥満傾向の児童の指導

・コミュニケーション指導の基礎知識 4
AACを活用したコミュニケーション指導
吉川 知夫
国立特別支援教育総合研究所主任研究員
・ちょっといい話 私の工夫
肢体不自由児が主体的に 取り組める作業環境づくり
山中 由喜
高知県立高知若草養護学校教諭
・特別支援教育の動向
第60回全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会総会および
PTA・校長会合同研究大会(東京大会)報告
 
・読者の声
 
ICT活用で学びの機会を保証する
岩脇 勉
新潟県立上越特別支援学校教諭


  現在、私が担当する児童にとって、ICT機器活用による学習指導は、「学びのアクセス」を保証するために不可欠なものです。
 進行性筋疾患により疲労しやすく、上下肢の動きが困難な本児の学習は、縮小プリントや軽量の筆記用具で行われ、教員の介助なしには学習に取り組むことが難しい状態でした。また、校内での呼吸器の使用が認められていないため、体調を崩しやすく、計画的に欠席して体調を調整しながら登校しています。
 このような実態を踏まえ、合理的配慮の一つとしてICT活用の必要性を感じ、三年前からタブレット端末を活用した学習指導を、また、今年度からテレビ会議システムを活用した遠隔授業も取り入れました。その結果、学習活動による身体的負担を大幅に軽減し、体調を安定させながら学習に取り組めるようになりました。また、自ら教材にアクセスできるようになったことで自立した学習が可能となり、さらには、学習の空白の減少にもつながりました。これら取組の継続により、「たいていのことは、工夫次第でできる」というメッセージを、本児が体験的に理解できるよう願っています。
 一方で、本県には、ネットワークの運用を含めた設備や人材、ノウハウの継承、教職員の合理的配慮に対する意識などについて、課題があるように感じています。今後、県内外の先生方と情報を交換しながら、気軽にICT活用による学習指導ができる状況づくりを、続けていきたいと思います。


地域連携・地域とのつながりを学び、情報発信力の育成を目指す

遠藤 隼
東京都立鹿本学園主幹教諭


  本校は、肢体不自由教育部門と知的障害教育部門からなる特別支援学校として、平成26年度に開校しました。本年度、本校は、防災教育によるカリキュラム・マネジメントを含めた実践を通して、持続可能な社会づくりに向けた研究を行っています。
 「地域で生きるための情報発信力」の育成を目指して、「地域の総合防災訓練での学習」「防災に関する内容についての各教科の横断的な学習」「1泊2日の宿泊防災訓練での学習」と地域連携・地域発信、そして、各教科での学習を通して資質・能力の育成を図っています。
 肢体不自由教育部門高等部の生徒は、地域の皆さんと共同して防災訓練に参加しました。地域の皆さんと共に取り組む生徒の姿から、学校の授業では得られない、気付きや学びがあったことを確信しました。1泊2日の宿泊防災訓練では、知的障害教育部門中学部1年生も参加し、地域自治会にも参加協力を呼びかけて、学校組織の安全機能と災害時の実際場面を事前に想定し、生徒の災害時の対応力の向上、育成を目指しています。
 これらの取組では、新学習指導要領の背景にある「急激な社会の変化の中でも、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えること」や、新学習指導要領の考え方である「子供たちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し、社会との連携・協働によりその実現を図っていく」ことを意識しています。
 「カリキュラム・マネジメント」「社会に開かれた教育課程」を基に、防災教育を通して地域連携・地域とのつながりを学び、情報発信力の育成を目指して、引き続き取り組んでいきたいと思います。


・図書紹介
・トピックス
 
■次号予告
■編集後記