この本は、著者が医師として、医療的ケアを指導してきた内容を指針としてまとめたものです。
重症心身障害児(重症児)と呼ばれる子供たちの実態と、それに対する治療や日常のケアを説明しながら、人生を輝かせるためにはどうしたらよいかを実践してきた内容となっています。重症児にとって、特に、生活の質が問題となるのは、機能低下や二次障害の発現によって、今までの生活行為が困難になってきた時です。この本では、そうした状況になった時に、発現してくる障害の内容ごとに、それを一緒に受けとめる家族の心境、施す医療と、その後続けられる医療的ケアの実際の様子などが説明されています。
第1章では、著者が診ている障害児の中に、二次障害を併発する高年齢の重症児(者)が増えてきたという実情から、具体的事例について、重症児とその家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を考えています。呼吸障害、摂食障害、骨折など、加齢に伴って生じる機能低下への対応など、二人の男子の事例を通して本人と家族の身体と心の変化にどう対処されてきたかが、分りやすく説明されています。
第2章では、重症心身障害児と、その子供たちに関わる医療制度を説明し、具体的な障害と二次障害、それに対する医療的ケアがまとめられています。脳性マヒ、知的障害、てんかん、行動障害に分けて説明した後、併発して起こる二次障害については、更に詳しく項を分けています。気管切開については、医師としての判断基準も含めながら、実態把握の仕方や対応方法などが紹介されていますので、主治医の診断や薬の処方、治療を理解する上ではもちろん、学校においても、子供たちの実態把握や指導に際し役立つ内容となっています。実際に指導している子供が年少の場合でも、将来の二次障害を予防する意味で積極的に理解を深めたい内容ばかりです。
第3章では、尼崎医療生協病院の診療経過と著者自身が診てきた障害児医療について、まとめられています。病院内外で著者を中心に様々な人が関わって障害児医療を支えるシステムを作ってきたことが分ります。発達外来や小児科・発達相談員・理学療法士・外科などのチーム医療、往診、病院外では親の会や学校卒業後の施設など、一人の医師や病院を中心にして障害をもつ子供の一生をバックアップしていく体制が大切だと考えさせられました。学校における医療的ケアや医療制度も、そのためのものだと捉えられています。 著者は「重症児に対する医療を、障害そのものを治すことに限定すれば、障害が固定化して治らない状況になっている重症児に対して、医療は為すすべなしと言わざるを得ません。しかし、重症児のQOLを改善させるためには、医療がやるべきことは山ほどあると考えられます。」と言っています。著者は、医療職の立場から医療ができることについて述べていますが、教育現場においてもまた同様の考え方ができます。
学校に通う重症児についてもQOLを向上すべきであり、この本は、教育現場においても十分に参考となります。重症児はもちろん、その保護者・介助者のQOLの向上も重要であるとしていることも、注目したい点です。医療的内容を多く説明しながらも分りやすく、重症児のQOLの向上に関わる諸問題と対応策がまとめられた、分りやすいガイドブックです。
東京都立江戸川養護学校 島多 知子
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