成瀬悟策先生は子(ねずみ)年の生まれ。私も子年で、九州大学の最後の頃の弟子である。先生は、私より3回り前の子、今年で91歳となられる。この本は新たな心理療法の提案であり、刊行は平成26年の秋、「すごい」の一言である。
この教育の発展を支える
動作療法、どことなく馴染みのないタイトルかも知れない。肢体不自由教育では、動作訓練、臨床動作法という方が分かりやすい。肢体不自由教育の発展や養護・訓練(現、自立活動)の充実、それらの歴史的経緯を考えると、先生の考え方がこの教育に与えてきた影響は大きい。
特に、養護・訓練が学校教育として位置付けられ、教員がその指導を教育活動として展開していく上では、動作訓練の理論と方法は貴重なものであった。養護・訓練の創設が昭和46年、44年も前である。長年にわたり、多くの教員が医療ではないこの方法を学び、教育実践に活用してきた。
子どもの「からだ」
肢体不自由の子どももすべての子どもも、そして私たちも、すべての生き物は、自らの「からだ」と共に生きている。自らの「からだ」として生きている。私と「からだ」は、切り離せられない。
視点を変えれば、子どもの「からだ」は子どもが動かす対象でもあり、子ども自身でもあり、子どもの表出でもある。子どもと共に活動すること、やりとり、コミュニケーションの原点が、この「からだ」から生じる。
動作療法とは
動作療法とは、「動作の仕方を変えることを通して、それと一体的なこころの治療的変化を目指す心理療法」とされている。クライエント(子ども)が「生活場面に対応できる適応」力を高めることを目指す。そのために、セラピスト(教師)が子どもの「からだ」に働きかける動作訓練などを含めたアプローチの総体が、「動作療法」であると、理解した。
肢体不自由教育においては、動作訓練は、不自由な身体の動きを改善する理論と方法としての理解が一般的である。
しかしながら、成瀬先生が70年間をとおして追いかけてきたものは、これだけではない。臨床心理における心理療法として、「こころとからだ」のつながりがそのテーマである。心身相関の理解を超えて、動作を手がかりに、よりよく生きることの理論構築に力を尽くされている。
本書は、70年に及ぶ催眠療法、精神分析、行動療法、サイコドラマ、自律訓練、イメージ療法、自己コントロール法等の経験の末に「動作療法」へ行き着いた成瀬先生の足跡が記されている。また、動作療法の基礎から実際までが、写真やイラスト入りで解説されている。
子どもの動きの不自由さや、「こころ」と「からだ」のつながり、「からだ」の奥深さに興味がある教員だけではなく、特別支援学校で自立活動に携わっている教員にとっても、実践を探究するための必読書である。
(福岡大学 徳永 豊)
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