忘れず、今考えるべき
平成23年3月11日。東日本に大地震と大津波の自然現象が起きたことは、過去の出来事です。しかし、地震と津波と原発による災害とその爪痕は、今もなお続いている出来事です。東日本大震災は、過去なのか今も続くことなのか。本書は、東日本大震災を経験したすべての人々に対して、4年が経過した今をどう生きていけば良いのか、そして未来をどうつくるかについて、「支援」というキーワードから問い直した書と言えます。
被災地の「生」と「死」の
物語
全191ページの約半分は、著者が被災地を行脚し、千人以上の方と出会い、そこで聞き取った話が続きます。残念ながら命を落としてしまった方の話や、一命を取り留めたものの、その後の暮らしに計り知れぬ苦労をした話、次の一歩を何とか歩み始めることができた話など、一人ひとりの「生」に尊厳を感じながら、読みました。
「運命」で済ましてはなら
ない
本書を読み進めると、あの瞬間の判断が命を落としたという話だけではなく、障害があるがために、本人だけではどうしようもなかったという不遇さも重なっていることが分かります。さらに、それは発災時のことだけではなく、毎日の暮らしの中の危機管理の不十分さとも関係していることが分かります。ハード面、制度面の整備だけではなく、人と人との顔の見える支え合いの必要性を指摘しています。
私は、この書の表題を見たときに、無念さや後悔の念を感じていました。書を読み終えると、無念さや後悔の念は一層募り、「運命」という言葉で片づけられない、筆者の強い思いが伝わってきました。
世界に影響を与える
この書は、特別支援学校や特別支援学級の教員はもちろんのこと、障害のある人を支えたいと願うすべての方におすすめします。特に、防災対策に携わるに方とっては、必携の書です。読み終えたときに、「今の私にできることは何か」と考えている自分に、気づくと思います。また、この書は、当時の記録を辿ることが可能な貴重な書であり、100年後も全世界に影響を与え続ける歴史的な書物になるかもしれません。
著者の中村雅彦氏は元養護学校の校長です。我々から見れば、同じ教職に携わる先輩です。学校という枠を超えて、障害のある方々の生に寄り添い、育み、支えあうことを貫き通す中村先生に、尊敬の念を抱くばかりです。
(神奈川県立横浜ひなたやま支援学校 立花 裕治)
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