「文部科学省の特別支援教育資料によれば、小・中学校における肢体不自由がある児童生徒を対象とする特別支援学級および通級指導教室の数はきわめてまだ少ない現状があります。(中略)小・中学校で学ぶ肢体不自由がある児童生徒は、相当な数になると考えられます。しかし、通常の学級に在籍するものの通級による指導の対象となっていない者、あるいは、知的障害を併せ有して知的障害特別支援学級に在籍する者など、その存在は統計に反映されず、その教育の実態も見えにくくなっているのです。(本書より引用)」
このように、どれだけの教育的な支援が受けられているのか定かではない児童生徒が数多くいることが予想される肢体不自由児に対する教育について、本書は、具体的に分かりやすく、様々な観点から読みやすく書かれています。以下の四部で、構成されています。
第1部 肢体不自由の理解
肢体不自由の定義や、アセスメントの方法とその活用が記されています。骨格や脳機能など医学的な理解、心理や行動特性、知能検査等の活用が解説されています。
第2部 肢体不自由教育の歴史と制度
肢体不自由教育の萌芽から現在の制度に至るまで、読みやすく解説されています。
第3部 肢体不自由教育の専門性と授業づくり
重度・重複障害児の教育における現状と課題(医療的ケア、摂食指導、呼吸と姿勢づくりなど)や、教育課程、自立活動と個別の指導計画、教員の専門性と研修などについて解説されています。
第4部 肢体不自由者と地域
治療やリハビリテーション、福祉サービス、障害者手帳や雇用のこと、そして家族や社会生活、交流及び共同学習、合理的配慮についてなど、肢体不自由のある子供たちが地域で暮らすにあたり、私たち教員が知っておくべき内容が、分かりやすく解説されています。
特別支援教育の充実に向けて
本書は、インクルーシブ教育の進展が図られている、まさしく今だからこそ、改めて肢体不自由教育の現状と抱えている課題はどういうものなのか、という視点から整理されたものとなっています。また、多様なニーズのある肢体不自由がある子供たちへの理解に必要な肢体不自由教育の基礎・基本が多彩な執筆陣によって記されています。加えて、知っておくべき医療や福祉、雇用の面までふれられた、幅広い内容が網羅されている図書となっています。
一読してみると、知っていたようで詳しく説明を求められるとうまく言えない、というようなことを整理し理解することができる構成です。ぜひご一読いただくことをおすすめします。
(千葉県総合教育センター 尾﨑 美惠子)
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