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新重複障害教育実践ハンドブック

分藤 賢之 編著
 

B5判 272ページ

頒価2,400円+消費税 社会福祉法人 全国心身障害児福祉財団

新学習指導要領に向けて
 平成26年11月に「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方」についての諮問が、文部科学大臣から中央教育審議会に対して出されました。これを機に、学習指導要領の改訂に向けた審議が進められることになりました。
 この節目となる時期に編集された本書は、時代が求める新たな視点をはっきりと示しています。

教科の視点
 では、新たな視点とは何でしょうか。本書に示された言葉を借りると、「教科の視点」がその一つといえます。特別支援学校では教科別に指導するばかりではなく、知的障害のある児童生徒には各教科等を合わせて指導することも可能です。指導内容を検討する際に、教科を活用するという意味で「教科の視点」と表されています。
障害のあるなしに関わらず、「人間として調和のとれた育成」を目指すことが、学校教育の目的であり、そのために教えるべき内容が各教科等に示されています。教科はその内容に系統性や順序性があり、学びを重ねて何を目指すのかが分かりやすいものになっています。
 本書では、「障害が重度で重複している場合においても、教科指導の可能性の再検討が必要であり、教科の視点から指導内容を設定する試みが期待されます。」と記されています。重度・重複障害の子供であれば、知的障害者である子供を教育する場合の教科(以下、知的教科)を活用し、学校教育の基本である教科の視点で、子供につけたい力や実態把握、目標設定を行うことが強調されています。
 このように見ていくと、「教科の視点」は、新しい視点というよりも、非常に基本的な視点です。特別支援学校では、自立活動の指導を重視してきたため、「教科の視点」が曖昧になっていたことに気づかされました。
重複障害のある子供の教育課程において、自立活動の必要性を十分に認めながらも、教科の指導に替えて自立活動の指導とする場合は、その妥当性を検討するべきと論じられています。

インクルーシブな教育に向けて
 各教科等を合わせた指導を行う場合にも、知的教科の枠組みを活用して目標設定や指導内容を選定していきます。そのようにすることで、子供の身につけさせたい力が明確になります。
 障害のあるなしに関わらず、学校教育の中で子供に身につけたい力を教科の視点で把握することの先には、インクルーシブな教育があります。 
 ご一読をお勧めします。

(東京都立墨東特別支援学校 武井 純子)