最近、「インクルーシブ教育システムの構築」や「合理的配慮」に視点を置いた研修会が各学校で多く行われています。その研修の中で新たな用語の整理や、近年出された関連法令等を読み返す必要が増えています。そのような時に、本書は心強い味方です。
情勢の変化に対応した新訂版
本書は、平成21年9月に刊行した「特別支援教育の基礎・基本―一人一人のニーズに応じた教育の推進」を見直し、「新訂版」として刊行されました。副題が、「一人一人のニーズに応じた教育の推進」から「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築」に変更した点が、近年の特別支援教育を取り巻く情勢の変化を表しています。
中でも「第Ⅰ章 特別支援教育の基礎」は、インクルーシブ教育システムの構築に向けた特別支援教育の推進に多くのページを割いています。これは障害者権利条約、障害者差別解消法などの特別支援教育を巡る大きな動向を踏まえています。この章の「5.特別支援教育関連法令等」では、特別支援教育に携わる上で把握しておきたい平成17年の「発達障害者支援法の施行について」以降の法令や審議会報告等について、時系列順に概要とともに詳細が分かるウェブサイトのURLを掲載しています。研修会等の準備で資料を探す際の参考になります。
障害種別に応じた教育を網羅
一方「第Ⅱ章 各障害に応じた教育の基本」は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、重複障害、言語障害、情緒障害、発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥/多動性障害)の9つの障害種別について、基礎知識や教育課程編成の考え方、指導の工夫等を示しています。例えば、「(1)肢体不自由の基礎知識と実態把握」では、肢体不自由の実態把握について、「医学的側面からの把握」と「心理学的、教育的側面からの把握」に分けて、6ページにわたって指導上把握しておきたい事項と実態把握の方法について述べられています。
また「10.障害のある子どもへのアセスメント」では、アセスメントの目的と意義、主な検査の種類と方法及び配慮事項等が示されています。
近年、複数の障害種を扱う学校が増え、また障害種別を越えた人事異動も多くあります。そのような中で、指導経験のない障害についても知っておく必要があります。本書は、その際に障害種別の基本事項の把握に役立ちます。
いつも手元に
じっくりと最初から最後まで読むというよりも、いつも手の届くところに置き、「○○って、どういう意味だったかな」「××って、どう考えたら良かったのかな」等、何か疑問があった時にさっと開く「事典」あるいは「タウンページ」のような活用ができる1冊です。
(山梨県立甲府支援学校 保坂 美智子)
|