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海のいる風景 
―障害のある子と親の座標―

児玉 真美 著 
 
四六判 232ページ  1,800円 三輪書店

  わが子の障害をめぐって書かれた本は、今や数多く出版されていますが、とかく読者の情に訴えたり、障害児を育てているという共感を誘うものが多いのではないでしょうか。 また、そのたぐいの本は、一般的にとても気軽に手に取れ、一気に読めて感情を動かされて、読む者を主人公に置き換えたりしてしまうものです。

 本書をそんな気安さで手にしたのですが、本のタイトルから見て、「ちょっと、今までのものとは違いそう……」と思いつつ、また、本の装丁やページ数からも、期待感を持たされました。
 まず、誰しもわが家に障害のある子供が生まれることなど、母親の妊娠中から考えることはないと思います。出産時の不慮の事故や事情から、障害のある子供の親となるわけですから、障害に関して全く無知な親たちが、どれほど戸惑いを持ったり、その因縁を恨んだりと、他人には理解の及ばない世界です。

 初めて踏み込んだ障害児・者に携わる人の世界は、あまりにも今まで生きてきた社会とは違うので、著者が「不思議の国」と名付けたくだりから始まっています。これは、重い障害の娘〈海ちゃん〉と、母親である著者の歩いて来た十余年の足跡が書かれた本です。 程度の差こそあれ、障害児の親の誰もが通る道、そして体験すること、育児の折々に悩み、苦しんだことなどについて、主人公〈海ちゃん〉を通して、母親としての心模様が存分に書かれてあります。簡単で済む問題でも、特に障害児というたけで、一つことが起こると、その範囲は医療・教育・福祉と多岐にわたるため、問題が複雑かつややこしくなりがちです。

 あるところは、感情のままに母親として、あるときは冷静に客観的に働く女性の立場から……と、読み進む中で著者の考えはどうなのだろうと、興味をそそられて読みました。 中でも、障害者の親にとって、子供が在宅であれ施設入所であれ、一番の気がかりは、「親亡き後」だそうです。自己表現の出来ない子の生活を守るために、起こした著者の行動に感動さえ覚えました。

 全体を通して、単に障害児の母親が書いた本というだけでなく、文中に写真、挿絵の一片も無い本書の構成は、著者の仕事柄でもありましょうが、中身の濃い読みごたえのあるものです。
 読者に、共に考えさせられる問題提起もあり、生まれ育った地域の状況も方言を織り込みながら書かれてあり、身近に読める良書と思います。 

世田谷区 重症心身障害児(者)を守る会  岩城 節子