本書は、知的障害・発達障害の人たちのための『見てわかるビジネスマナー集』(ジアース教育新社)を基に作製されたマンガ版のビジネスマナー集ですが、単なるマンガ版ではありません。マンガならではの面白くて楽しい表現とストーリーを通して、ビジネスマナーの理解を具体的でわかりやすいものにしています。
また、全編ふりがな付きであるのも読みやすい点です。
読みやすいストーリー
本書の大きな特徴は、大変読みやすいストーリーであるということです。
本書のストーリーは、特別支援学校高等部を卒業した鈴木鉄太が、初出勤からあこがれの「先輩」になるまでを描きます。みだしなみや言葉づかい、他者との適切な距離感や休憩時間の過ごし方、そして異性との関係、社会人としてのルールやマナーに慣れるまでなどです。失敗の連続ではありますが、上司や支援者、家族や友達の支えを受けながら成長していく様子をコミカルに描いています。
ストーリーの中でこれらのルールやマナーが語られていくので、大変読みやすく、楽しくマナーについて学ぶことができます。
便利なワンポイントセミナー
本書のもう一つの特徴は、「ワンポイントセミナー」です。本書は全九話の構成ですが、各話の末尾に詳しい説明を書き加えた「ワンポイントセミナー」を収録しています。このワンポイントセミナーは、各話のポイントをまとめたもので、「職場では声のボリュームに注意」「会話時の相手との距離は一メートルが基本」など、文章での具体的なアドバイスがあります。また、「みだしなみチェックリスト」や「会社への電話のかけ方チェックリスト」などの具体的なチェックリストも収録され、すぐに役立つ内容となっています。
さらに、これらの会社でのマナーのみならず、暗黙のマナーやルール、異性の関係について、悩みの相談相手などについてもアドバイスがあり、一般的なビジネスマナー集にはない部分についても取り上げられているのは、とても便利な点です。
社会のマナー集として
最後に、本書の特徴として、一般的なビジネスマナー集が取り上げることがない、「迷惑行為」「異性関係」などの当たり前と思われていることについて、ふれられている点があげられます。
本書は、知的障害・発達障害の方々が就職して働くときの困難と解決方法を分かりやすく具体的に説明した本です。こうした困難に相談を通じて理解を深めて解決していく姿は、社会としてあるべき姿でもあります。当たり前と思われていることについてあえて触れられているからこそ、はっとする方もいるかもしれません。
本書は、私たちが社会で生きていくためのマナー集としても役立つものと言えます
(筑波大学附属桐が丘特別支援学校 岡部 盛篤)
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