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障害の重い子どもの発達診断
─基本と応用─

白石 正久 著
 

A5判、242ページ

本体価格2,400円+税 クリエイツかもがわ

 一般的な発達検査の項目では、障害の重い子供たちの発達を正確に測れない、といった経験をもつ読者は少なくないのではと思います。本書は、このような、機能障害の重い子供の「発達検査」と「発達診断」の方法を述べたものです。

発達検査と発達診断の方法
 本書は、発達の質的変換期と次の発達の質的変換期の間に「階層」といわれる発達段階が存在しているとする、田中昌人・田中杉恵の「可逆操作の高次化における階層―段階理論」を前提にしています。  第1章では、主に彼らによって考案された発達検査と発達診断の方法を引用し、障害がない場合の、生後2か月頃〜2歳後半頃までの発達段階について述べられています。  それぞれの段階の子供の、検査場面で見られる、対象物や検査者への行動や視線、関わり方などの様子が、実際の写真を用いて分かりやすく紹介されています。  特筆すべきは、観察される行動や視線の背景にある、発達的な意味が、詳細に解説されている点です。読者は、写真を確認し場面を思い浮かべながら読み進める中で、子供の行動の背景について考え、理解することができるでしょう。

「みかけの重度」問題
 第2章では、障害のある子供の事例が取り上げられています。  筆者によれば、発達はさまざまな機能・能力の連関によって成り立っており、障害のある子供の場合、障害の制約によって発達の連関にずれが生じることがあります。 目に見える現象にとらわれ、障害による制約を発達の遅滞現象と混同しないよう、子供たちに潜在する機能・能力へと視野を広げることが必要と述べられています。  また、障害のある子供の発達検査での様子は、保護者からの聴取による生活過程での変化の様子と食い違うことがあります。筆者は、この食い違いを検討していくことで、教育指導上の手がかりが導き出されることを強調しています。  第3章〜7章は、さらに具体的に重い機能障害のある子供たちの発達について述べられています。

発達診断と教育実践のために
 終章では、教師と教育のあり方について述べられています。  筆者は、発達の質的変換期に、子供は自己を高め変革しようという「発達要求」通りでない今の自分に出会うとし、その矛盾を克服していく過程で重要なのが人とのつながりであり、ここに教育の役割を見出しています。そして、子供は、大人や子供同士の関係を媒介として共感、共有、共同の世界を形成しようとしており、その世界を、子供の生活と人生で、意味のあるものになるよう創造するのが教師の仕事としています。  これらの主張は、障害の重い子供たちを指導する読者に、子供たちの発達を捉えるヒントと、教育活動を見つめ直す機会を与えてくれます。ぜひご一読ください。

(東京都立水元小合学園 武部 綾子)