障害がある人たちの多くは、言葉によるコミュニケーションがとても不得手です。時に彼らは、言葉によるやりとりを拒むこともあります。そのような人を前に、彼らの主体的な活動を引出すために多くの教師が迷い、悩んでいます。
私たちは、子供が発達の過程で言葉を獲得することにより、極端に言語に依存したやりとりをするようになります。新生児期の母子関係に象徴されるように、言葉にのみ依存しない柔軟なやりとりを、私たちは言葉の獲得と代償に喪失しているのかも知れません。障害のある人たちとの出会いは、日ごろ言語に大きく依存するやりとりに支配されていることを気づかせてくれるのではないでしょうか。
動作法は、関わり手と相手の互いの身体の触合いを通した自己と他者が向合う活動です。したがって、相手の主体的な活動を導くために、どのように触れるかが極めて重要になります。動作法は、言語に依存せずに柔軟に相手とのやりとりを可能にさせてくれる有効な技法です。
本書は、動作法の入門書であるだけでなく、相手とのやりとりをどのように行えばよいのか、相手の主体的な学びをどのように成立させればよいのかなどについて、真剣に悩み、迷う教師、学生にとって多くの示唆を与えてくれます。
本書は、大野清志・村田茂編「動作法ハンドブック・基礎編―初心者のための技法入門―」(慶應義塾大学出版会)の応用編として編集されています。基礎編では、動作法の基本的な動作改善に関する技法に着目して、モデルパターン動作を訓練の際の四つの姿勢(寝る、すわる、立つ、歩く)によって章分けし、図化するなど手順を分りやすく示しています。本書は、応用編として行動問題、心の健康、スポーツ等への適用を企図しています。訓練種目は、手順の説明と具体的な展開図を見開き2頁にまとめるという基礎編の特長を生かしつつ、想定する対象ごとに訓練種目を系列化して示すという工夫が凝らされています。
「I.動作法適用の発展」では、動作法の概要とその発展について述べ、次に想定する訓練対象によって、「U.障害者の行動改善」、「V.心理的問題の改善」、「W.運動・スポーツ技能の向上」、「V.日常動作の向上」、「Y.心理的健康の保持・増進」をあげており、最後にZとして「動作法適用の参考事例」を紹介しています。
なお、動作法に基づく指導の実施にあたっては、改めて本書I章(4)「動作法の技法に関する原則」を参照してください。そこで、技法の実施における問題として、原則を踏まえつつも、形にとらわれることなく相手の状態に合わせること、常に相手の自発的な動きに着目して、関わり手が柔軟に対応することを指摘しています。心理療法として開発・発展してきた動作法が、今日、学校教育場面等において広く導入されてきた背景には技法もさることながら、このような理念があればこそと理解できます。更に、本書を読み進めていくと、動作法に造詣が深い方のスーパービジョンを受けることが大切であることに気づかされます。
筑波大学心身障害学系 安藤 隆男
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