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発達に遅れがあるこどものための文字・文章の読み書き指導

川間 弘子 著
 

A4判 207ページ

本体価格2,500円+税

ジアース教育新社
「文字」ってなんだろう
私たちは当たり前のように文字を読み、文字を書きます。自分がどうやって文字を覚えたかを、記憶していない人がほとんどでしょう。しかし、文字を学習するためには、音の弁別機能の発達、形や大きさを弁別するための視知覚認知面の発達、文字を書くための手指の巧緻性の発達、文字を読むための構音機能の発達など、いくつものレディネスが必要です。
本書は、第一部の「文字を読む」の前に、「事前準備」のページがあります。そこで、改めて文字を教える意味・学ぶ意味を問い直しています。前述の文字学習のレディネスについても、三ケースの事例を引用しながら、具体的に示されています。
五歳児のけんちゃんは、手に持った物をすぐに投げてしまうので、ペンを持ち続けることが難しい状態でした。そのような状態の子供に、文字指導をどのように導入するのだろうと読み進めました。初めは、興味をもって自分から手を伸ばすものを見つけ、次第に因果化関係の学習に進み、手の操作性の高まりを把握したところで、紙とペンを渡しました。すると、ペンを長く持ち続け、グルグルや点々を描くことができるようになりました。

「困った!」に合わせた指導法
文字学習の意義やレディネスについて、事例により示されることで、より子供の姿を思いうかべながら、理解することができます。本書の各所には事例が示され、指導の進め方の理解を助けてくれます。
筆者は、養護学校(当時)の教諭を経て、現在「認定NPO法人 やまぐち発達臨床支援センター」の理事長を務めるなど、長年にわたって、学習に困っている子供たちの支援を行っている方です。随所に示される、豊富な事例は、その長年の経験によるものだとうかがえます。
第一部「文字を読む」、第二部「文字を書く」のそれぞれ第三章には、「読むときに、なめらかに文字を追えない」「パソコン以外の文字を受け入れない」など、子供の「困った」ことに対する、指導の手立ての例も示されています。これも、個別指導の経験の深い筆者ならではのものでしょう。

子供の見方=子供の味方
第三部「文構成から文章へ」で本書は締めくくられています。話すことだけではなく、読み書きを獲得できたら、どんなに子供の世界は広がるでしょうか。
筆者は、「なんでかな?」を「○○だからかな?」に変えると、支援の方法がたくさん見つかります、と書いています。なんでかな?で立ち止まらず、〜だからかな?と指導を模索するときに、きっと助けてくれる一冊です。

(東京都立墨東特別支援学校 武井純子)