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知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン
本人の「思い」や「願い」を踏まえた「深い学び」の実現に向けて

菊地一文 監修
全国特別支援学校知的障害教育校長会 編著
 

B5判 185ページ

本体価格2,090円(税込)

ジアース教育新社
 平成二十一年三月に特別支援学校高等部学習指導要領に「キャリア教育」の推進が位置づけられてから、一二年が経過します。自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援する視点に立つ特別支援教育においては、キャリア教育は中核的な学校の課題となっていると言えるでしょう。本書は、特別支援教育におけるキャリア教育について研究を重ねてこられた菊地一文先生監修のもと、知的障害教育におけるキャリア教育の基本理論や具体的な実践事例を豊富に学ぶことができます。

理論編
 本書は第1部「理論編」と第2部「実践編」に分かれています。理論編は菊地一文先生が執筆しています。特別支援教育におけるキャリア教育の進展について、カリキュラム・マネジメントについて、学級経営・ホームルーム経営の在り方、障害特性とキャリアデザインについて論じられています。また、歴史的・今日的な背景や課題を踏まえつつ、知的障害の特性や教育的対応の基本について確認しながら、キャリアデザインの必要性や内容について体系的に論じられています。例えば、キャリア発達支援の参考ポイントとして、@「育てたい力」の明確化とキャリア教育の組織的取組、A「本人の願い」の丁寧な把握と共有の工夫、B「いま」と「これから」を「つなぐ取組」の工夫の3点を挙げています。コラムでは重度・重複障害のある子どもの事例を挙げ、“「発語がなければ「思い」や「願い」は把握できないのか?”という問題提起があり、肢体不自由教育に携わる先生方にも強く心に残る内容になっています。

実践編
 第2部「実践編」では、キャリア発達の視点を踏まえ、全国各地で展開されてきた実践が紹介されています。小学部・小学校の実践を7事例、中学部・中学校の実践を6事例、高等部の実践が8事例あります。監修者の指摘通り、いずれの実践も「つなぐ」が共通のキーワードになっています。どの実践も、児童生徒と地域を「つなぐ」、各教科と学びを「つなぐ」、今と将来を「つなぐ」実践が、豊富に掲載されています。いずれの学校もキャリア教育の視点のもと、授業や教育課程の工夫、見直しを図り、組織的に取り組まれていることが伝わります。
 キャリア発達支援においてポイントにされている子供本人の「思い」や「願い」を重視した上で本人の将来や社会生活につながる学習を展開している豊富な実践に、強く感銘を受けました。本書は、特別支援学校(知的障害)におけるキャリア教育の理論を深め、全国で展開している実践を具体的に学ぶことができます。ぜひ手元において、目を通すことをお薦めいたします。

(神奈川県立保土ケ谷養護学校 柳沼佑介)