この本のタイトルにもなっているように、その法律が具体的にどのようなものであるかを知っていますか、と問われると、正確に答えられる人は、そう多くはないと思います。
この「身体障害者補助犬法」は、平成14年5月に成立し、同年10月に一部施行され、公共施設、公共交通機関での補助犬の受入れが義務付けられました。そして、15年10月に完全施行され、デパートやホテルなど民間施設への補助犬の受入れが義務付けられました。
この本の著者は、日本聴導犬協会会長であり、平成14年には、英語圏外としては初めて国際アシスタンス・ドッグ協会(ADI)の理事として選ばれた方です。また、著者は、補助犬法の成立に向けて尽力されてきた方です。本書では、そのような立場から、この法律の概要を分りやすく紹介しています。
「身体障害者補助犬法」において、補助犬とは、盲導犬、聴導犬、介助犬を指しています。盲導犬についてはなじみのある方が多いと思いますが、聴導犬は、聴覚障害のある方の日常生活において必要な情報を伝えたり、音源への誘導等を行う犬です。また、介助犬は、肢体不自由の方の日常生活においてさまざまな補助をする犬です。
この本の第1章は、「補助犬法のポイントと社会的サポー卜」と題されており、補助犬法の成立の経緯と補助犬法の概要、補助犬を受入れる側に求められる配慮事項等について、イラスト入りで分りやすく解説されています。この章を読めば、補助犬法とはどのようなものであるか、そして、補助犬を受入れる側では、具体的にどのような点に配慮すればよいか、ということが分るようになっています。
第2章は、「補助犬法を考える」と題されており、補助犬法をめぐる種々の課題について解説がなされています。この章を読むと、補助犬法の成立は大きな前進ですが、更に取組んでいかなければならない多くの課題も存在していることが分ります。
第3章は、「国際的にみた日本の補助犬法」であり、諸外国の法律を紹介しながら、わが国の補助犬法の特質を浮き彫りにしています。そして、各国の法律の歴史的・文化的な背景について述べられています。
第4章は、「補助犬法のこれから」であり、補助犬の育成に関わる関題など、補助犬法をめぐる種々の課題への今後の取組について述べられています。
この本を読んで特に興味深かったのは、第3章で述べられている、各国の法律は、どのような考え方が基盤となっているのか、ということでした。これは、各国の障害のある方々のためのサービスの在り方全般に関わっていることであるということを、改めて考えさせられました。ここで展開されている議論は、障害のある子供の教育の在り方を考えていく上でも、大変に参考になるものです。
この本は、障害のある子供たちの教育に携わる多くの関係者にとって、「身体障害者補助犬法」について正確な知識を得るために、また、その法律の背景を理解するために、大変有益な本となるでしょう。
国立特殊教育総合研究所 渡邉 章
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