本書は全国特別支援学校肢体不自由教育校長会が発刊する「授業力向上シリーズ」の第10号にあたります。サブタイトルは「『何を、どのように学ばせたのか』を明確にする」と記されています。
この10年の間に学習指導要領が改訂され、平成から令和へと時代は移りました。本書は「肢体不自由教育の我が国における黎明から今日までを俯瞰し、また最新の知見に基づく自立活動の内容と各教科の関連まで」(巻頭のことばより)が示された内容となっています。
第一部 理論及び解説編
第一部は三章で構成され、本シリーズ発刊当初からの歴代特別支援教育調査官が肢体不自由教育における授業力向上について、肢体不自由教育の今後の期待について述べています。
第二章を記した下山氏は、糸賀一雄が残した「この子らを世の光に」という言葉を紹介しています。そして「障害の重い子供を社会で生きる存在と位置付け、そのもてる力を伸ばすことによって自己実現と社会参加を実現するという糸賀の考えに、障害の重い子供の教育の意義を改めて教えられます。」と記しています。肢体不自由者を教育する特別支援学校で学ぶ児童生徒の自立と社会参加に向けて、教師は様々な教育活動を展開し、学びの場である授業を提供する存在です。
第一章から三章までを一読することで、昭和の時代の先人たちの療育からはじまった肢体不自由教育が、社会の変化に対応しながら充実・発展してきて今があることがよく分かります。また、各教科の指導内容や自立活動について自治体の取組が引用され、大変分かりやすく具体的に記されています。令和の時代を生きる教師にとって、自らの授業を振り返る際の視点がたくさん詰まっています。
第二部 実践編
第二部では、全国から選出された20の実践事例が紹介されています。どの事例にも授業の概要を記した「授業力向上シート」が付いていて、学習指導要領との関連が明確に示されています。教師が目の前の子供の姿をどのように捉え、どう考えて授業を組み立てたのかが記されており、読者はなるほどとうなづいたり共感したりしながら読めることでしょう。全ての事例に付された編集協力者の先生方のコメントからも、学ぶものが多くあります。
編集委員の一人である伴氏は、「教師は教える専門職でありながら、上手な教え手は同時に優秀な学び手でもある」と述べています。「よりよい授業をしたい」「子供たちの『わかる・できる』姿に会いたい」と本書を手に取った読者に、授業力向上のための多くの示唆を与えてくれる一冊です。ぜひご一読ください。
(東京都立光明学園 武部 綾子)
|