初心者が学びやすい内容
本書は、肢体不自由教育の基本となることが、10の章により構成されています。第1章の「肢体不自由の現状と歴史」から始まり、肢体不自由のある子供の特性や個別の指導計画について、教材・教具、福祉や医療についてなどの章が続きます。学齢期を中心に、就学前から卒業後への成長の時間軸の中で対応することや、地域・家庭・医療などの連携をもって対応することが、網羅されています。
例えば、第6章「自立活動の指導の実際」では、事例を通じて自立活動の目標や指導内容の設定までの過程を、具体的に知ることができます。
事例1では、カード整理法を活用した実態把握と授業づくり、事例2では、各教科と自立活動を関連づけた指導、事例3では、自立活動の6区分27項目の内容を関連付けた指導に、それぞれ焦点を当て取り上げています。
また、第7章では、重度・重複障害の定義を明確にし、その上で重度・重複障害のもたらす困難を整理しています。そして、生理機能や感覚等の特性をひとつずつ解説し、必要な配慮と指導上の工夫などを示しています。各項は、詳細な説明ではありませんが、端的で初心者が理解しやすい記述になっています。重度・重複障害児に初めて対応するときに、何を配慮すればよいか、どこに指導の重点を置けばよいか、エッセンスが示されています。
今につながる歴史
本書の多くのページは、実践にすぐに繋がる内容ですが、それだけではなく、第1章には、肢体不自由教育の現状と、現在に至る肢体不自由教育の歩みが記されています。1960年代から教育上の課題とされている重度・重複化は現在も続いており、医療的ケアの必要な子供もますます増えている現状が、資料とともに示されています。
また、肢体不自由教育の始まりは、第二次世界大戦より前にさかのぼります。肢体不自由教育の草創期から現在までの歴史からは、肢体不自由教育と医療が、初めから強い結びつきをもっていたことを知ることができます。
肢体不自由教育の初心者だけではなく、中堅の教員の方も、そして特別支援学級や通常の学校で肢体不自由のある子供を指導されている方たちにも、教科書のように活用できる1冊であると思います。読者のニーズに応じて、どの章から読んでもよいでしょう。
シリーズとして他の障害種を取り上げた冊子も刊行されています。基本を身に付け、日々の授業に安心感と充実感をもって臨むための支えになればという、監修者の願いが伝わってきます。
(前東京都立墨東特別支援学校 武井 純子)
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