読者の中には、毎月1日に、独立行政法人特別支援教育総合研究所(以下、特総研)から届くメールマガジンを楽しみに講読している方も少なくないと思います。私自身も、月の初めにこのメールを受け取ると、新たな月の始まりを感じると同時に、今このような研究がなされているのだと、刺激を受けたり、幾度か尋ねた久里浜の地を思い出したりします。
本書は、特総研の前理事長である宍戸和成氏が、そのメールマガジンのまとめに記していた「NISEダイアリー」を編んだものです。
著者 宍戸和成氏について
著者の宍戸氏は、聾学校の小学部で子供の指導にあたった後、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課調査官を務め、特総研の聴覚・言語障害教育研究部長となりました。その後、文部科学省初等中等教育局視学官、筑波大学附属久里浜特別支援学校の校長を歴任し、再び特総研に戻り理事長を務めました。
本書の中では、聾学校の教員時代の経験や子供たちから学んだことが多く語られると同時に、この間に改訂された学習指導要領に関して、また特総研の研究員に期待するものについて等が、数ページのコラムで述べられています。宍戸氏が幾度となく、「相手に分かるように伝える」「相手の身になって考える」ことの大切さを説いていることは大変印象的で、氏の聾学校での教員経験がその背景にあることがわかります。
先輩の言葉に学ぶ
宍戸氏が本書を通して読者に伝えようとしているような、一人の教師としての先輩の言葉には、学ぶことが数多くあるように思います。明日の授業や目の前の子供のこと、日々の業務連絡、毎日の職場の同僚や先輩とのやりとりなどの中に、たくさんあります。そこから、大きな時代の流れの中ですぐに答えが出ないような事柄や、今の自分の立ち位置、取り組んでいることが見えることもあります。先輩の豊かな経験に基づいた人生訓や教師としての在り方、生き方に触れたとき、私たちはそれを受けて今いかにあるべきか、何が自分に求められているのかを考えさせられます。近年の学校の多忙化の中では、こういった時間が少なくなってしまったように感じます。
本書はメールマガジンのまとめに示されたコラムが初出ですので、一つ一つは短く、すぐに読むことができます。読んだ後には、私にもこのようなことがあったと思い出したり、深く共感したり考えさせられたり、という機会を与えてくれます。これからの特別支援教育を担う読者には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
(東京都立光明学園 武部 綾子)
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