本書は、「重度・重複障害児の学習とは?―障害が重い子どもが主体的・対話的で深い学びを行うための基礎」(2021)の続編です。
前書で大切にした視点(@重度の子自身の能動的な動きや表出に応えることを教育の基盤にする、A新しい心理学の考えに基づき重度の子の学びを再検討する、B学校の現状を子供の視点から捉え、批判的思考で改善点を明確に提示する、C具体的な授業を考える基礎となる子供を捉える視点を提供する)をさらに進め、重度の子の学習を考えています。
やりとりの関係
本書冒頭の「総論 重度・重複障害児の能動的な学習を促進する学習内容と学習環境の設定」で、筆者は、重度の子とかかわる際に大切にして欲しいこととして、重度の子とかかわり手(特定の他者)とのコミュニケーションが「やりとりの関係」になることを挙げています。「やりとりの関係」とは「片方が発した表出に対し相手が応答し、そして応答し合うようなかかわり(かわりばんこ)です。」としています。
また、このやりとりは、音声だけでなく動きでの反応(指や視線を動かすなどの微細な行動)も含みます。
理論と実践を橋渡しする
筆者は総論の中で「理論だけ知っていてもそれを実際の指導に当てはめるのが難しく、実践だけ行っていても独りよがりになりやすいと考えます。」と述べています。そのため、本書は総論の後に「第T章 重度・重複障害児の学習―能動的な学習を促進するための理論」と「第U章 実践編」に分け、理論と実践が両輪となって実際の指導を充実させることを目指しています。
第T章では、上記の四つの視点の中で示された「新しい心理学」の1つである生態心理学や、重度・重複障害児の初期学習理論、アタッチメントの重要性について整理しています。また、本誌読者になじみ深い特別支援学校学習指導要領だけでなく、幼稚園教育要領や保育所保育指針などにも触れています。
第U章では、朝の会や自立活動での指導において、例えば生態心理学理論の行動セッティングのシステム構造の評価をどのように取り入れたかなど、第T章で示した各理論を実践に取り入れる具体例やその効果について示しています。
重度・重複障害児の学びを深める
読者の中には、表出が非常に微細な児童生徒の学習をどう作るか悩んでいる方も少なくないでしょう。そのようなときに、この本は多くのヒントを私たちに提示してくれると思います。
(山梨県立わかば支援学校 ふじかわ分校教諭 保坂美智子)
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