読者の中にはお話や物語、絵本を授業に取り入れた経験のある方が少なくないでしょう。しかし、その授業作りには気を付けなければならないと思うことが、しばしばあります。参考となるようなよい授業実践も多いのですが、一方でお話のどの部分を取り上げて何を子供に伝えるのか、どのように読むか、具体物は何を用意するか等は、授業の焦点の置き方で随分変わってきます。
物語になぞらえた再現活動を設定すれば活動は成り立っているように見えます。しかし、子供はそこで何を学んでいるのかと疑問に思うこともあります。そこでそのお話を取り上げることの意味は何だろうか。本書は、これらの問いに、1つの答えを示してくれます。
実践の背景:ストーリーテリングによる学びと育ち
3部仕立てで構成された本書の第1部では、お話を子供に語るということの理論的背景が記されています。人間がお話することの意味に始まり、昔話が子供の成長に果たす役割、障害のある子供にとっての学びやことばの力について、大変わかりやすく解説されています。著者の一人である高野氏は、「物語特に昔話を語るストーリーテリングにより、発達途上の子供は多様な価値観を受け入れ、先を見通す力や思考する力をつけていくことが期待できる。」「ことばを育て、理解や記憶を助け、多様な価値観、予測する力、思考力を育むことが可能な昔話のストーリーテリングを、子供の教育や発達支援にもっと活用していくことがよい」と記しています。
また、特に障害のある子供たちにはお話を語ってもらう機会を多くもってほしい、多感覚に訴えるマルチセンソリー・ストーリーテリングを仲間と共に聞く場をもって欲しい、と述べています。
実践事例やストーリーテリングの具体例
第2部では、教育現場での実践事例が複数紹介されています。特別支援学校小学部での食育の実践に始まり、高等学校における通級による指導や聴覚障害のある子供に対する手話による読み聞かせなども紹介されています。これらからは、ストーリーテリングの様々な可能性を感じさせられます。ここまで本書を読み進めてくると、「自分の担当の子供達に対して自分の授業ではどんなことができるだろうか」という気持にさせられます。
第3部では、編著者お勧めの言葉遊びや小さなお話、繰り返しのお話、障害理解につながるようなお話が具体的に紹介されています。是非一度手にとっていただき、授業研究の一助としていただければと思います。
(東京都立光明学園 武部綾子)
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