感覚と運動の高次化理論と実践を結びつける
著者の冨澤佳代子氏は、「肢体不自由教育」第二六四号から二六七号まで、「初期の育ち(感覚と運動)の理解と支援の基礎知識」を連載で、執筆されています。連載の中でも、ケースを取り上げ、「感覚と運動の高次化理論」を具体的に解説してくださっています。
かつて筆者が、担当するA君と初めて課題別の学習をした時のことです。A君と一対一で向き合い、容器の中にゴルフボールを入れる課題を提示しました。
しかし、担当したA君は、「はい、どうぞ」とゴルフボールを提示しても一向に目を向けてくれません。手に持たせると、今度は握りこんで離せなくなり、手をぶんぶん振るので、そのうちにゴルフボールがどこかに飛んで行ってしまいます。
今度は手を取って、一緒にゴルフボールを容器に入れようとしました。するとA君は,ボールを離して容器の端を握りこんでしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまいました。
そんな時に、外部専門家としていらしていた冨澤先生に相談したところ、「どうしたら、できるようになるか」の前に、A君の育ちの姿をもう少し詳しく見ることを、ご教示いただきました。育ちの姿を理解する枠組みにしたのが、「感覚と運動の高次化理論」です。
A君は、自分から物に手を伸ばすことがまだできない、物を握っても、自分から放すことが難しいというのが、その時の姿でした。まだ、「入れる」が課題になる段階ではないことがわかりました。課題を変えて、学習を進めました。
実践を通して子供の発達を支える
筆者の経験を紹介しましたが、子供の発達に応じた、わかりやすく、かかわりやすい課題を設定することで、子供の学びは広がります。
本書は、理論編で「感覚と運動の高次化理論」の「ここを押さえておきたい」というところを簡潔に記しています。
理論編を基に、実践編では四七の活動例が、それぞれの活動に取り組むおおよその発達のステージとともに示されています。活動例は「輪抜き」「ひも通し」「ひらがなの読み」など、基本的で誰でも指導しやすいものです。
「感覚と運動の高次化理論」を学んでから、実践に活用するのでは、時間がかかります。本書を手掛かりに、子供の発達に目を向けた実践を積み重ねていくことで、更に理論が理解できるようになります。
「感覚と運動の高次化理論」を学ぶ入門書として、また、理論に裏付けされた、子供の発達に応じた学習活動を進める手引書として、お手元に一冊あると、十分に活用できると思います。本誌の基礎知識の連載とともに、ご覧ください。
(元東京都立墨東特別支援学校 武井純子)
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