「椅子は納品されて終わりではなく、その後の成長や障害の変化に応じたきめ紬かいサービスが供給者に求められる。」これは、著者からいただいた手紙の中の一節です。
考えてみると、当たり前であるそのようなことに何度もはっとさせられる、本書はそんな1冊です。執筆依頼を受けるまで座位保持装置の存在すら知らなかった著者が、座位保持装置を生んだ「でく工房」に1年もの間実際に勤め、工房スタッフや利用者、家族に寄り添いつつ取材をしながら、少し距離を置いた第三者の目で丁寧に分りやすく語っています。
肢体不自由教育において、当たり前のように存在している座位保持装置を巡り、それが生まれるまでの試行錯誤の歴史、利用者、家族、関係者の様々な思いが描かれています。座位保持装置が生活に根付くまで、そして公的な補助が受けられるようになるまでには、会社組織に嫌気がさして、ドロップアウトした3人の若者の「世のため人のためになるような物づくりをしたい」という熱い、それでいて漠然としていた思いから、全ては始まっています。更に、いす作りがなくてはならない産業として成熟していく裏で、純粋に物づくりを楽しんできた者たちの苦悩もあったのです。
特別支援教育の流れにある今だからこそ、歴史を創った先人たちのエネルギーを学ぶことのできる本書は、必読の1冊ともいえるでしょう。
国立特殊教育総合研究所 徳永 亜希雄
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