平成五年、東京都立村山養護学校は、救急医療体制整備事業のモデル校として、その在り方の研究をしていました。当時、東京都教育委員会の主任指導主事だった飯野順子氏を迎えての研修会があり、「先例のない困難な課題であるが、自分も頑張るので研究を続けてほしい。」と語り、温かいねぎらいの言葉を思い出します。
これを機に研究が進み、次の年の報告書へと結びつきました。飯野氏の熱意が、我々の心を動かし研究への大きな力になったと思っています。
本書において、医療的ケアの内容に多くのページが割かれているのも、飯野氏のこの課題解決に向けた並々ならぬ情熱の表れではないかと思います。
本書は、医療的ケアにとどまらない飯野氏の肢体不自由教育への熱い思いが、全部で六章にわたってあふれています。
「第1章 親とともに創る教育を目指すために」では、子供を中心に据えた教育を、保護者とどのようにしたら創れるのかという内容です。分かりやすく五つの項目で説いてあり、親の願いに答えることの真の意味を教えられます。
「第2章 『学びの本質』に迫る授業づくりのために」では、いくつかの具体的な授業をPLAN・DO・SEEの視点から分析し、授業研究の秘訣をまとめて明示しています。
「第3章 養護学校における教師の専門性とは何か」では、専門的な分野が多い肢体不自由教育ですが、具体的な例をあげてその専門性のうち一体何が必要なのかを教えられます。
「第4章 医療的ケアの課題への取組みのプロセス」では、医療的ケアについての歴史的経過・課題の整理とその観点などが論じられています。必要なことが全て網羅されていることから資料的な意味も高いものです。医療的ケアについては、新しいステージを迎えた今、教育的な位置づけを研究・実践していくための新たな方向性も示唆していると思います。
「第5章 自立と社会参加のために」では、肢体不自由教育の基本は、障害の受容・自己理解を促し、肯定的な自己像を作れるように指導・援助することと述べ、自立に向けて何を大切にしていくべきか、どのような働きかけがあるのかを述べています。
「第6章 学校だより」では、校長時代の学校便りを通して語る構成になっています。「今、子供に何が必要か」という視点を大切にした話。交流教育のエピソード。命の尊さや生きることの素晴らしさと向き合う話など、どれも感動が伝わってくる内容です。
「本人をもって語らしめよ」という飯野氏の信条が貫かれたこの本は、名もなき人々の切実な声や数多くの事例を集めた実践集でもあります。我々教師が、何を大切にしていかなければいけないのかを示唆してくれる必読の一冊だと思います。
東京都立町田養護学校 豊島隆久
|