恵ちゃんは、生まれてすぐ「人工呼吸器」をつけ、それをはずすために「気管切開」を行い、栄養をとるため「胃ろうチューブ」をつけています。
「医療的ケア」が必要な子供たちの生活
この本には医療的ケアが必要な子供たちの生活やその中での様々な思いがつづられています。
小さな鼻の穴には五本ものチューブが差し込まれていたこと。初めて笑ったときのお母さんの喜び。気管切開を決めたときの思い。その手術をした直後に迎えた満一歳のお誕生日。「今日は恵のがんばり記念日だ」というご両親の言葉。退院した後、一気に増えたお母さんの負担。通院するのに、「オムツ、着替え、吸引器、チューブ類、栄養ミルク、酸素ボンベ、恵ちゃん本人」これだけをかかえて病院へ通うことへの緊張感。学校への付き添いに、吸引器など合計六キロの荷物を背負って行ったこと。風邪をひけば一日百回以上の吸引。山積みになった家事、やっと寝付いても夜中にも数十分おきの吸引。「どこのお母さんでもしている小さな楽しみが自分にとってはいつまでも手の届かないこと……」というお母さんの言葉。
私たちは現場の教員として
「医療的ケア」は、一九八八年に学校教育で問題となり、十年後に文部科学省で研究が開始されました。二〇〇四年に厚生労働省は、一定の条件を満たせば、教員も吸引や経管栄養などを行うことを認めるようになりました。
私たちがこれまで行ってきた「医療的ケア」について、今後、どのように考えていけばよいのでしょうか。このようなお母さんたちが置かれている状況を鑑みれば、答えはおのずと見えてくると思います。私たちがどこに向かって何を働きかけていけばよいのかが分かる気がします。
社会への理解を求めて
一般社会ではどのくらい「医療的ケア」について知られているでしょうか。著者の井上夕香さん(童話作家)は、新聞に掲載された恵ちゃんのお母さんの投書を読んで「医療的ケア」の必要な子供の存在に気づいたそうです。
監修の下川先生は「今を生きる子供たちの『いのち』が輝くような環境を整えるのが大人の役割と思うようになりました。社会の中で無駄な『いのち』というものは決してないのです。問題は、その『いのち』を守ることがこれまで家族まかせにされてきた点です。」と述べています。
恵ちゃんのお母さんは、訪問看護制度を利用できるようになり、初めてたった四十五分間だけ独りで出かけたそうです。それは、恵ちゃんが三歳八か月で退院してから二年近く経ってからでした。
全国に医療的ケアを必要とする子供たちが四千五百人いると言われています。この本が、養護学校教員を始め、保育園、幼稚園、小・中学校の先生方、同じ年代の障害のない子供たち、そして保護者の方々にも読まれ、多くの人々が医療的ケアを必要とする子供への理解を一層深めていくことを願っています。
千葉県立桜が丘養護学校 尾崎美恵子
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