「障害があっても、自分を生かせる職場で働き、働くことに生き甲斐をもって生活したい。」
本書は、横浜にある養護学校高等部三年生と、彼らの進路指導に当った著者との、就職に向けた一年間の奮闘記です。様々な困難を乗り越え、決して諦めずに就職という目標に向かう様子は、冒頭のような思いを抱える多くの方とその支援者に希望と意欲を与えてくれるはずです。
「就職なんて無理…」
『はじめに』の中で著者が記しています。
〜「就職なんて考えもしなかった」彼ら。そして、「就職なんてできるはずがない」と思われていた彼ら。しかし、「自分の生き方」に目覚め、必死に就職を勝ち取っていった姿・社会の一員として仕事に大いなるやりがいを持って働いている姿に心からエールを送りたい。(抜粋)〜
目標に向かって頑張る彼らの姿に、何事にも最初から「無理…」ではなく、強く望むことや諦めないことの大切さを教えられました。
同時に、「自分の進路は、誰でもない自分自身が決めること」と生徒や保護者を啓発しつつ、「自分の気持ちに正直に、後悔しないように、もう遅いなんてことはないよ。」と絶えず励まし続ける一方で、「就職したいと思う生徒のために会社を探すことは学校(進路担当)の仕事である。」と言い切り、一人の生徒に対して百社は当たるという、著者の職場開拓の精神に、進路指導の原点を見た思いがしました。
一年という限られた短い時間の中で、保護者はもとより生徒自身の意識をこれほどまでに変え、就職を現実の形にしていった著者の進路指導から学ぶべきことは、とても多いと思います。
九人の奮闘実録
個々の生徒の就職に向けた実際の悪戦苦闘ぶりも書かれています。一度進路を決めたものの、自分の気持に正直に卒業式直前まで就職の可能性を模索し希望の会社に就職した人、卒業後でも保護者と本人の気持と頑張りで就職が実現した人。九人の九通りの頑張りに、読む人は皆元気づけられ、力づけられると思います。
就労するために大事なこと
著者は、就労するために一番大事なことは、障害者本人が「働きたい」「自立したい」という気持を持つことであり、加えて就労を続けて行くためには家族のサポートと企業のフォローが不可欠であると書いています。そして、このような気持を持ち、社会に通じるきちんとしたルールを身につけた子供たちを育てていく役割が、家庭と学校に課せられているとも書いています。
著者と同じく養護学校高等部教育に携わる私は、この部分にとても納得しました。おそらく、これから本書をお読みになる多くの方々も深く頷かれることでしょう。
本書は、学校教育に携わる方だけでなく、保護者そして障害者雇用を推し進めてくださる企業や関係諸機関の方々にもぜひ一読いただきたい書籍です。
東京都立八王子東養護学校 市宮 環美
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