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障害の重い子どもの授業づくり
―開く・支える・つなぐをキーワードに―

飯野 順子、授業づくり研究会I&M 編著
 
B5判 288ページ 2,400円 ジアース教育新社

 本書は、飯野順子氏の他、多数の著者により障害の重い子どもの授業に関してテーマごとにまとめられた書籍です。指導事例集のような本ではありませんが、豊富な実践事例とそれに基づく授業づくりのポイントが明確に分かりやすく述べられています。
 筆者らはこれまで、障害の重い子どもたちとかかわる中で、授業づくりの核を磨き上げつつ実践としての理論を深めてきた先達であり、どの記載内容にも説得力があり、まさに「実践の知」の集大成と言えます。
 
第1章 「学びの本質」に迫る授業づくり
 授業づくりの概論です。子どもに付けたい力、教師にとって必要な専門性、授業の評価の観点などについて列挙され、それらを一読するだけで授業づくりとは何かについて、学ぶことができます。
 
第2章 授業づくりは、学校づくり
 学校経営の視点からの授業づくりについて述べています。教育課程、指導計画を踏まえた授業の基本を押さえることから、学校外までを含めた指導組織としてのチームワークづくりの重要性が指摘されています。
 
第3章 授業を開く―授業の実践から
 インリアル・アプローチによるコミュニケーションの発達を促す授業づくり、学習環境の整備や教材づくり等を工夫する「みる・きく」の授業づくり、複数の子どもの個々の課題を明確にしつつ横断的指導を工夫した授業づくり、自己選択・自己決定・自己責任の機会や場となる授業づくり、授業づくりでのチームティーチングの意義、障害の重い子どもたちが「見る」という視点からの授業づくり、各教科の本質を踏まえた音楽、図工等の授業づくり、在宅訪問学級での六年間の指導及び意思表出を促すためにパルスオキシメーターを活用した授業づくりなどが紹介されています。

第4章 授業を支える
 健康観察チェック表を活用した教員間の情報共有、個別の教育支援計画の作成、活動に応じた適切な姿勢づくり、子どもの行動を起点とした教材・教具の工夫、学習評価について紹介されています。
 
第5章 授業をつなぐ
 「保護者の望む授業づくり」では、保護者の立場から「医療・教育・福祉・労働の連携」の中での授業とは何かを示唆しています。「教育と医療の連携のもとに…―授業づくりに当たって、医療的ケアの課題を考える―」では、医療的ケアの考え方と教育上の意義を解説しています。

 自分の授業をよりよくしたい方は、授業の改善点が見つかり、授業を理論的に説明できるようになります。じっくり読む時間のない方は、目次を見て目に留まった箇所を読むだけでも、明日からの授業づくりのコツが見えてきます。
 そして、何よりも授業を創造することの醍醐味を味わわせてくれる一冊です。

東京都新宿区立新宿養護学校 引地 隆一