文部科学省から「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等について」(通知)が二〇〇四年に出され、学校での医療的ケア実施に、国としての方針が出されました。
本書は、「大阪養護教育と医療研究会」の大阪における一〇年にわたる取組をまとめたものです。医療的ケアを必要とする子供の生活や教育のために、様々な立場の方が熱意を持って取り組み続けたその軌跡、これからの課題と展望が述べられています。
障害の重い子供への取組
第一章では、医療的ケアを必要とする子供の学校における事例を通して、教育の立場から医療的ケアの教育的側面が示されています。
事例の一つでは、吸引を日常的に必要とする生徒についての取組
が報告されています。その中では、吸引器を使用して痰を吸引するだけではなく、「痰の貯留を減らし、咳き込む力を高めるための日常的な姿勢管理や筋緊張への配慮が重要」と述べられています。体幹部のストレッチや呼吸訓練を効果的に行うために「ゆらゆらイス」などを考案し、これらの機器を使用して、体幹保持が難しい生徒が呼吸の安定を目標として取り組むための工夫が紹介されています。
この事例の他に、訪問教育における医療的ケアの事例、緊張が強く呼吸の管理が難しい生徒の事例、教員と看護師の連携・協働のあり方について全校で取り組んだ事例が紹介されています。どの事例も、教員が試行錯誤をしながら、医療的ケアを必要とする子供の健康状態を保ち、より良い学習環境や生活を作ろうとする真摯な姿勢が浮かび上がってきます。
これまでの歩みと今後の課題
第二章では、校長、養護教諭、医師という立場から、これまでの取組の経緯と今後の課題が述べられています。「医療的ケア」という用語と概念が作られていくまでの経緯や、様々な立場の人が医療的ケアの必要性を行政や社会に訴え続けてきたこと、現在の医療的ケアの実施が、多くの方々の努力と熱意の結果であることを改めて実感しました。そして、今後の課題として、学校としてのシステムづくりや、教育・医療・福祉の連携のあり方などが述べられています。
様々な立場からの取組
第三章では、理学療法士、言語聴覚士、学校医など、医療的ケアに関わる様々な立場の人による取組が紹介されています。ここでは呼吸や摂食機能についての基礎的な知識、技術などについて簡潔に情報が整理されています。また、卒業後の医療と福祉の連携について、通所更生施設の看護師としての立場からその取組が紹介されています。
この他に各章の間には、コラムとして保護者などからの意見や提言が載っています。率直な意見が述べられ、心に響く言葉が随所に散りばめられています。
本書を通して大阪における医療的ケアの取組を知り、医療的ケアに関する知識を深めるとともに、医療的ケアを必要とする子供への自らの実践を振り返り、その質を高めるためにぜひ役立ててほしい一冊であると思います。
神奈川県立三ッ境養護学校 佐世ちひろ
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