『足のない旅』 は、 丸山薫賞などを受賞した詩人の自伝である。著者は重度の脳性マヒであるが、 その誕生から子ども時代、 「十五歳詩的出発」、 三十代で受けた訓練による心身の変化などが書かれている。多感で鋭く周囲を見つめる目の持ち主であることがわかる。三十二歳で久留米に訓練入院をしたとき、 「このとき初めて、 人間の身体はこんなにもよく動くものかという実感を深くした」 そうである。しかしそのことよりも訓練の先生の 「これまで身障者としての生活を詩に持ちこまなかったのは逃避だと思うが・・・(以下略)」 という言葉が 「喉に刺さった魚の骨のようにひっかかって」 いて、 葛藤の末、 これまでとは作風の違う詩集 「壁画」 を出版する。ここではじめて 「身障者である自分の現実を公開」 し、 「ちょっと精神的なストリップを演じるような勇気がいった」 と記している。しかしいずれの詩も軽さとさりげなさに読み手の気持ちが暖かくなる感じがした。活動を支える力として両親の存在があった。父へのレクイエムである 「父の右手」 の一編が印象に残る。「(前略) これが 永年 わたしが酷使した あのたくましい右手だろうかと わが目を疑いたくなるような 白くすべすべした父の力ない手をとって 注射で眠っている その耳に 父が醒めている間は 口がさけても言えなかった 感謝と別れの言葉を 一生一代の思いのたけを告げる」
千葉県立桜が丘養護学校教諭 尾崎美恵子
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