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肢体不自由のある子どもの教科指導Q&A
―「見えにくさ・とらえにくさ」をふまえた確かな実践―

筑波大学附属桐が丘特別支援学校
 
B5判 123ページ 税別価格1,700円 ジアース教育新社


肢体不自由のある子どもの「気づかれにくい困難」

  特別支援教育のもと小・中学校への支援が展開される中、見落とされがちな子どもたちがいます。通常学級で学ぶ肢体不自由のある子どもたちです。彼らに対しては、「学校内の車いす移動が困難」「短時間で着替えることが難しい」等、他人から見て分かりやすい困難に対する支援が中心となりがちです。
  しかし、肢体不自由のある子どもたち、特に脳性まひ児の中には、「目と手の協応の困難」「空間認知の困難」「図・地関係の逆転」といった周囲の人々から「気づかれにくい困難」がある子どもがいます。その困難に、周囲の人々が気づかずに、教科指導等において、「本人なりに頑張っている」「身体的機能の制限があり、できなくても仕方がない」と判断されてしまうことがあります。もし子どもたちの学びにくさに対する適切な手だてがあれば、彼らは学ぶこと、分かることが容易になり、より主体的、意欲的に学習に取り組むことができるのです。
  本書は、ちょっとした手だてがあれば、力を発揮できる肢体不自由のある子どもの学びを実現させるためのヒント集であり、各教科ごとの指導、用語集等から成っています。特別支援学校や特別支援学級における活用はもちろん、通常学級で学ぶ肢体不自由のある子どもの指導に携わる先生方が集団指導の中で実践可能な手だてを、具体的に紹介しています。

効果的な指導の工夫
  「読み始めが分からない」「文字や行を飛ばし読みしてしまう」「上手に整列することが難しい」「立体物の制作中に作りたい形が次第に分からなくなってしまう」等、授業において肢体不自由のある子どもが示す学習上の困難は様々です。
  他方、これらの子どもの特徴的な実態として、「図や表、資料等から情報を読み取ることが苦手」「事柄の順序や要点を整理して話したり聞いたりすることが難しい」「部分と全体のつながりを把握しにくい」等が挙げられます。本書には、このような実態に対し、国語や社会など九つの教科についてより効果的な指導上の工夫が紹介されています。また、上肢操作に困難さを抱える子どもに対する指導の工夫についても紹介されています。

本書の使い方
  この本は、各ページが一つの「Q」と一つの「A」で構成されています。子どもの抱える困難の実態、考えられる困難の背景、そして指導の工夫の三段階で整理されています。子どもの困難さの状況は同じでも、その背景は様々です。日々の教育活動で子どもを観察、理解する際の視点として本書の「Q」を活用し、個々の実態や困難さの背景に応じた指導の工夫を図ることが大切です。
  本書は、肢体不自由のある子どもが抱える「気づかれにくい困難」に周囲が気づくきっかけを提供し、併せて、気づいた困難に対する手だてを工夫する際のヒントを提供する珠玉の書籍です。特別支援学校での指導や、小・中学校への支援において、肢体不自由のある子どもが達成感を味わいながら確実に力をつけていける授業づくりに、ご活用ください。



福岡教育大学 一木 薫