本書は、看護の母といわれたナイチンゲールによって書かれた「看護覚え書」をもとに、家庭でのケアの基本的な事項についてまとめた書籍です。
「看護覚え書」は、1860年に出版され、現在も看護師の教科書とされていますが、本来は家庭の介護者向けに書かれた家庭ケアの本です。そのため、本書では、「いつでも」「誰でも」「すぐに」できるケアの基本的な事柄が、聖路加国際病院名誉院長の「日野原重明氏による解説」と、画家である「葉祥明氏の色鮮やかな水彩画」とともに紹介されています。
本書は三つのポイントからなっています。
1 ケアのこころえ
日本語では「医療」「看護」「介護」のようにケアをする立場によってケアを表す言葉が区別されています。英語の場合は「ケア」という単語が含まれた用語で表されます。例えば、教育現場で障害のある子供に対する対応を、「医療的ケア」と称するのも、英語の表記に準じたものと思われます。
病気のある人や介護を必要とする人をケアするにあたって必要なことは「患者の様子にいつも注意を払うこと」と記されています。家族は、ケアを受ける人とかかわる時間が長く、日常的にケアをしています。そのため、ケアを受ける人の体調や性格、好き嫌いなどを他の誰よりも把握しています。ですから、ケアには家族の力が重要なのです。
2 環境整備
ナイチンゲールがクリミア戦争において野戦病院の衛生環境を整え、致死率を下げたことはあまりにも有名です。また、ナイチンゲールは清潔を保つ要素として、「清浄な空気」「清浄な水」「効率の良い排水」「清潔」「日光」をあげています。
科学技術が発展した現在では、機器類やシステムの整備で「清潔」を保つことが容易になっていますが、エアコンのフィルター掃除など人の手が必要な部分があることも忘れてはなりません。加えて、ハード面の充実とともに、ケアを受ける人の体調や状況に応じて提供されるソフト面の充実がますます必要となっています。
3 ケアを受ける人に寄り添って
患者の状態の正確な観察抜きには、ケアは成り立ちません。ケアの目的を明確にし、目の前の状況のみにとらわれず、背景となる要因や前日の様子を把握し、包括的なケアにあたることが重要です。また、病気の回復にあたっては、音楽や自然の草花も非常に有効となります。
現在、学校で障害の重い子供たちとかかわっている環境を、ケアとして振り返ってみてはいかがでしょうか。毎日の食事の場面や、普段何気なくかわしている会話は、ケアの観点からみて充実しているでしょうか。
本書は、障害の重い子供たちとかかわるすべての方々に、ケアの原点を見直す良いきっかけを与えるすてきな書籍であると思います。
筑波大学附属視覚特別支援学校教諭 本岡 まい |