特別支援教育の流れの中で、「肢体不自由教育の専門性」を生かした指導・支援を、学校の内外において実践することが求められています。本書では、筑波大学附属桐が丘特別支援学校における50年間の実践の積み重ねを基に「肢体不自由教育の専門性」が具体的に示されています。
肢体不自由教育に必携の書籍
さて、特別支援学校(肢体不自由)にて指導を行う教員の中で、現在の職に就く前に肢体不自由教育について学んできた方は、どれだけいらっしゃるのでしょうか。
文部科学省による平成19年度実施の調査では、特別支援学校(肢体不自由)における当該免許状保有率は69.7%です。免許状保持率は年々高まっていますが、3割の教員は免許状を取得しないまま肢体不自由教育に携わっています。また、大学で養護学校教員免許状(現行の特別支援学校教員免許状)を取得した方でも、学習内容は知的障害教育に関する内容が中心で、肢体不自由教育に関しては学ぶ機会が少なかった方が多いと思われます。このように、多くの方々が特別支援学校(肢体不自由)に勤務してから肢体不自由教育について学んでいるのが現状です。
この状況の中、肢体不自由教育に関する専門性を網羅した本書は、肢体不自由教育に初めて携わる方や大学等で肢体不自由教育を学び始めた方にとって必携であるとともに、肢体不自由教育のベテラン教員にとっても、指導力の向上や学校組織としての専門性を高める上で貴重な一冊となっています。
基本事項と実践の集積
本書は3部から構成されています。
「第1部」では、肢体不自由教育の歩みを歴史を追って振り返り、「自立活動の指導の充実」や「職業教育や進路指導の充実」等の今日的な課題を整理し、「肢体不自由」という障害を医学的、心理学的、教育・社会的に多角的にとらえることで、肢体不自由教育の基本的事項を網羅しています。
「第2部」では、「個別の指導計画」「自立活動の指導」「総合的な学習の時間の指導」「教科の指導」「地域のセンター的機能」について、その基本的な考え方と桐が丘特別支援学校における実践を、写真や図を用いて紹介しています。また、「教科の指導」では、各教科ごとに見開きで、肢体不自由の障害特性が授業に及ぼす影響と、指導の工夫及び配慮の具体例について取り上げています。
「第3部」では、「肢体不自由教育の専門性」に迫り、どのように専門性を充実していくかを提示しつつ、肢体不自由教育がこれまで培ってきた専門性を学校の外にどのようにして発信するかについて示しています。
なお、同じく桐が丘特別支援学校が編集した『肢体不自由のある子どもの教科指導Q&A〜見えにくさ・とらえにくさをふまえた確かな実践〜』を参考することにより、より一層「肢体不自由教育の専門性」の理解が深まると思います。併せてご一読を勧めます。
山梨県立わかば支援学校教諭 保坂 美智子 |