本書は、「地域支援の構築」と「最先端の研究からの発達支援」の二つの視点で構成されています。
1 地域支援の構築
福岡県糸島地区は人口約十万人の小規模な地域です。この地域は隣接する福岡市のように就学前の療育センターや特別支援学校がありません。
八年前にこの地域で、地域の保健師と筆者である大神英裕氏を中心とする九州大学のグループが核となり、子育てに悩む保護者や発達障害の可能性がある幼児と家族を支える地域支援の取組が始まりました。
その取組の願いは、専門機関がない「この糸島地区を、安心して子育てできる地域に」でした。
2 小学校教育を含めた支援体制
八年が経過する中で、乳幼児であった子供たちは、すでに小学校で教育を受けています。就学前の地域支援はより拡大し、小学校を含めた支援体制の構築の段階に入っています。
就学前から小学校まで、地域の保健師、学校教育関係者、大学関係者、地域の専門家が力を合わせたプロジェクト、「地域づくり」の取組が紹介されています。
キーワードを紹介すると「八か月からの発達調査」「ハイリスク児の経過把握と支援」「就学前の多段階支援システム」「就学への移行支援」です。
3 最先端の研究から
研究のキーワードは、「共同注意」又は「共同注意関連行動」です。共同注意(joint attention)とは、「子どもと大人が同一の対象に対して注意や情動を共有している状態」をいいます。この共同注意の形成は、乳幼児期におけるコミュニケーションの発達の基礎として重要な現象です。
本書では、八か月からの乳幼児がどのように、このコミュニケーションの基本となる力を身につけていくのかを明らかにしています。乳児にとって人とやりとりが可能となるのは、一歳前の段階であり、その背景にどのような行動が可能となるかをデータに基づいて示しています。
4 特別支援学校の取組へ
特別支援学校においては、初期のコミュニケーションを形成していくための基本的な力をどう指導していくかは重要なことです。
発達初期の子供は、「子供と対象物」「子供と大人」の関係から、「子供と対象物、そして大人」とより複雑な構造の中でやりとりを高めていきます。その際の行動の見方や課題設定の仕方、また具体的な支援を考えることが重要になります。
研究の全体像は紹介できませんでしたが、発達障害でも重複障害でもコミュニケーションの基礎は同じ構造であることは確かです。
本書を読むことで、この基本的で重要なことを知ることができます。
福岡大学教授 徳永 豊 |