特殊教育が特別支援教育へ、養護学校が特別支援学校へと変革を遂げました。その変革の先駆者として京都市の取組があったことは、ご存じのことと思います。
物事に変化が求められるときには、変化を必要とする何らかの理由があります。本書には、その理由と、変革を遂げた、京都市のみなさんの目標と取組が詳細に記されています。
お互いがお互いを認め合う「共感」が変革の原動力となる
本書は、京都市長を始めとして、京都市立総合支援学校、京都市教育委員会、PTAなどの関係者70名近くの執筆者及び編集協力者により、作成されました。読み進めると、子どもに携わるさまざまな方々が目標に共感し、共感の輪が少しずつ育まれていったこと、そして共感した者同士が、一つの目標に向かって、それぞれの役割を果たしたこと、一連の変革の中心には、いつも子どもが存在していたことが、強く伝わってきます。
一方、変革に当たっては、色々な苦労や無数の課題があったことなど、決して順風満帆ではなかったことも克明に記されています。しかし、京都市は、これらの困難を一つ一つ乗り越えて、変革を成し遂げました。
困難を乗り越えられたことの理由は、子どもの教育の未来に対する共感と熱意だったのかもしれないと感じました。このことは、「思いだけでは事は成就しない」とは言われますが、「理念を共感する人が互いに協力しあうことによって、事が成る可能性があること」や「自分の仕事に使命感や責任感をもって臨むこと」の重要性が示唆されています。
加えて、変革はそこに携わる人々だけで達成できるものではなく、先達の理念と取組が今の世代にメッセージを遺し、今に生きる方々がそれを教えとして大切に受け止めて未来を展望したことによって、成し遂げられたと言えます。まさに、京都市の取組は、同じ時代を生きる者同士の共感と、時代を超えた時間軸に生きる者同士の共感によって、成し遂げられたと言っても過言ではないでしょう。
本書の構成
本書は、第1章「総合支援学校の今」、第2章「新しい教育のあり方を目指して 新設・再編までの歩み―障害のある子どもの教育の変遷」、第3章「新しい教育を目指して―養護学校再編の日々」の3つの章で構成されています。最後に、資料編として、一連の変革に関する資料が載っています。
近い将来、特別支援教育の理念と実践が全国で当たり前と言われるようになったとき、きっと大きな成果を得ると同時に新たな課題にも直面していることでしょう。 本書は、過去を振り返り、今を見つめ、未来を展望るための、重要な書籍となるでしょう。
神奈川県立総合教育センター指導主事 立花 裕治
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