本書は、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で実施された自閉症教育のプロジェクト研究の成果をまとめたものです。
1 研究とその成果
自閉症教育のプロジェクト研究は、平成15年度より実施され、平成17年度までの成果が、『自閉症教育実践ガイドブック―今の充実と明日への展望―』『自閉症教育実践ケースブック―より確かな指導の追及―』(いずれもジ アース教育新社)としてまとめられ、出版されています。
本書は、より実践的な継続研究の成果として、自閉症教育のエッセンスと実践のための新たなアイデア、取組の具体例がまとめられています。
2 学校全体で取り組む
特別支援学校においては、自閉症を独自な障害として位置づけることが必要です。児童生徒を「自閉症を伴う知的障害」ではなく、「知的障害を伴う自閉症」として理解することが大切です。そして、学校全体で自閉症教育に取り組む必要があります。
学校全体で自閉症教育にチャレンジするためには、各学校の取組を評価し、状況を確認し、改善計画を作成することが必要です。本書には、評価のための自閉症教育チェックリストが掲載されています。これは、学校としての自閉症教育専門性モデルであり、肢体不自由教育の専門性を検討する上でもとても参考になります。
3 特性を理解して活用する
自閉症の障害特性として「意思伝達の質的な困難」など11の項目が解説してあります。特性を踏まえてそれを活用する取組を紹介しています。肢体不自由教育における児童生徒の認知特性等を考慮する発想に類似します。
4 核となるのキーポイント
自閉症教育の核となるものとして「7つのキーポイント」が提案されています。自閉症の児童生徒が学習する上での基本的な行動であり、「学習を支える学び」と位置づけられている重要な項目です。この項目で児童生徒の現状を把握しつつ、これらの力を身につけることで、多くの場面での学びが質の高いものになるとされています。
5 授業の評価・改善シートとは
特別支援教育の重要な課題のひとつは授業の改善です。本書では、授業のねらいを教員集団で共有して、評価できる授業をめざそうという意図から「授業の評価・改善シート」を提案しています。肢体不自由教育においても、具体的な目標と評価できる授業をめざして、活用できる提案です。
本書を読むことで、自閉症教育の基本とそのエッセンスを知ることができ、併せて肢体不自由教育の充実へのヒントを得ることができます。
福岡大学教授 徳永 豊
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