近年、障がいの重い人たちの「わずかな身体の動きでも主体的に活動したい」「意思を伝えたい」という願いに応えるために、AT(支援技術)やAAC(補助拡大代替コミュニケーションの考え方)への関心が高まっています。
本書は、主に障がいの重い子供にATやAACを普及させるため発足したボランティア団体・マジカルトイボックスのメンバーが実践したハイテク・ローテク教材の作り方や工夫を、10項目に分類し写真やイラストを交えながら数多く紹介しています。また、AACの基本的な理解のための用語解説などが四コマ漫画で分かりやすく書かれており、初心者にも適した一冊です。
構成は以下の通りです。
- 遊び・ゲーム(カードゲームやボウリングなどを主体的に楽しむための工夫)
- 音楽(子供の動きを活用して楽器を鳴らす工夫)
- 生活(調理や筆記・携帯電話など日常生活に役立つ工夫)
- 落下装置(子供のひもを引っ張る動きを活用した、落下装置を使った授業・生活場面での工夫)
- スイッチの工夫(多様なスイッチを、より効果的に活用できる工夫)
- カメラ(デジタルカメラを主体的に使うための工夫)
- ゲームパッド(パソコン用ゲームパッドの作成方法と使い方)
- パソコン(タッチパネルやマウス、ジョイスティックなどパソコンを使った活動で役立つ周辺機器や、その工夫)
- 役立つWeb情報(学校や個人で立ち上げているソフトやソフトライブラリーの紹介)
- 環境設定・考え方(教材を作る上での考え方と、その教材を効果的に活用するための環境設定についての紹介)
「なぜ支援機器を使うのか?」
スイッチなどを授業で使用することはよく見られます。しかし授業を円滑にすすめるために、教員が子供たちの手を持ってスイッチを操作してしまう場面もあるのではないでしょうか。子供は、「先生が援助してくれるから自分で手を動かさなくていい」ことを学習してしまいます。
本書では、支援機器を使う上で最も大切なことは、「子供からの働きかけを引き出すこと」と書かれており、「自分でできた!」という達成感を味わうことにこだわった教材や工夫が集められています。そして、子供とかかわるときには、子供のペースで見守り、「大人の援助が本当に必要か?」をもう一度考えてから子供に働きかけることを伝えています。
特に、5章や8章では、身体の動きに制限がある肢体不自由児の可能な動き(押す、引っ張る、握るなど)に合わせるだけではなく、指先や足の指、視線などさまざまな部位、姿勢で使える支援機器、ソフトを紹介しています。「こんなに色々な種類があるのか」と驚くと同時に、すぐにでも学校で使ってみたい工夫が紹介されています。
なお、マジカルトイボックスから発信された著作は本書で4冊目です。他の3冊も本書と違った切り口で書かれ実践に役立つ書籍となっています。併せてご活用ください。
(東京都立城南特別支援学校教諭 岩城 千尋)
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