障害が重度で重複している子どもの教育活動においては、子どもとのやりとり、コミュニケーションをどう展開していくかが基本になります。そして、障害の重い子どものコミュニケーションを考える上で重要な現象として「共同注意(joint
attention)」があります。
本書では、乳幼児の「2項関係」から「3項関係」、そして「共同注意」の形成までを「3項関係形成モデル」として示し、障害が重度な子どもの事例研究によって、「自分の理解」や「他者への働きかけ」、「対象物の操作」の発達の筋道を示しています。
重度・重複障害の子どものコミュニケーションと共同注意
第1章から3章では、障害のある子どものコミュニケーションや対人相互交渉、乳幼児の発達研究と共同注意関連行動について述べられています。
第1章では、コミュニケーション関係を成立させるための一つの手段として「子どもと大人が一緒にからだを動かす」ことを取り上げ、コミュニケーションの質とコミュニケーション行動を検討しています。
第2章では、肢体不自由を主とする重度・重複障害児を対象として、前言語的対人相互交渉についての研究動向をまとめています。
第3章では、コミュニケーション行動の発達に重要な「共同注意関連行動」を手がかりに、重度・重複障害児の行動指標を検討していて、コミュニケーションを考える際の示唆が得られます。
重度・重複障害児の指導と3項関係形成モデル
第4章では、身体接触を手がかりとして指導を展開した事例を基に、指導の考え方や方法について述べられています。
第5章では、初期のコミュニケーションに重要な3項関係形成までのプロセスを7つの発達段階として臨床モデルが提案されています。障害の重い子どもが自分や他者へのかかわり、対象物へのかかわりをどのように発達させていくのかが丁寧に示されています。
そして、最後の第6章では、重度・重複障害児の指導場面の分析を通して、共同注意の成立を促す要因について、3つの事例研究によって検討しています。
指導充実のための必読の書
自立活動で新たに加わった「人間関係の形成」の要素に「他者の意図・感情の理解」があります。この行動の前提が「共同注意」の獲得になります。本書は、自立活動の指導を充実させる必読の書といえると思います。
ぜひ、本書を一読し、重度・重複障害児との豊かなコミュニケーションを実現させてください。
(東京都立城南特別支援学校 吉川 知夫)
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