重複障害のある子どもたちのよりより教育を日々求めている方々にとって、本書は実践の中で必要な専門的な情報が分かりやすく示されています。
理解と指導の要点
重複障害児を理解し、学校生活を支える上で、発達の知識や、障害を起因とする生活上の困難、それに対応する指導の要点が記されています。
担当する子どもをどんな観点で理解し、実態把握を進めていけばよいのか。また、この分野の知識を詳しく学びたいという時にも、健康理解、摂食指導、人間関係・情緒、認知、視機能、姿勢・運動発達、上肢機能、言語・コミュニケーションと分かれているので、領域ごとに振り返ることができます。さらに、理解を深めるための参考文献も紹介されています。
指導計画の作成
「個別の指導計画」を、日々の学校生活や授業につなげるために、作成と評価の視点や手順が記されています。担当する子どものここを育てたいという思いや保護者の希望に、具体的に何をどうすればよいのかについて、「1、重複障害児理解と指導のポイントから子どもを捉え、様々な背景要因を基に指導仮説をたてる」「2、優先順位と方向性を定め、指導の内容・方法・手立てを明示する(個別の指導計画作成)」「3、日々の実践を次につながるように整理する(総括的評価)」等の観点から解説しています。
事例の中で「個別の指導計画」を学校生活や授業につなげたことで、事例の子どもの力がついた経過が紹介されています。指導仮説、長期目標、短期目標、仮説の検証(評価)、を明確にしながら、日々の実践を積み重ねることの大切さを考えさせられました。
指導の展開
本書には、「子どもたちは、可能性のある自ら輝く素材です」と述べられています。子どもが自発性と主体性を発揮するために、どのように授業づくりをしていくのか、自らの実践を問い返す契機となる記述です。
また、重度・重複障害のある子どもの授業づくりにおいては、自立活動とのつながりを明確に整理する必要があります。自立活動の観点から指導する課題を整理し、「個別の指導計画」の指導目標や授業を組み立てる際に、課題や学習内容同士を相互に関連づけ、子どもの学びやすい形にしていくという視点は、肢体不自由特別支援学校の授業づくりにおいて学んでいきたい内容です。
その他に、重複障害教育の現状と課題、教材・教具と支援機器、「個別の教育支援計画」と進路指導の情報も紹介されています。手元において知識を整理するのに最適な一冊です。是非ご一読ください。
(東京都立江戸川特別支援学校 竹重 沙和)
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