教材教具を使用した学習
本書の著者である立松英子先生(東京福祉大学教授)は、教材教具を使用した学習の重要性について、次のように言及しています。
「単に何かの操作ができるようにするための反復練習ではありません。(中略)どんなものを選ぶのか、次には何を用意すればよいのか、というのはそれ自体が独立した体系としてあるわけでなく、子供がどのように物を見て、どのように手を出して、どのように人を振り返るかということとの相互関係で決まります。」(本誌第189号論説「コミュニケーション行動と教材・教具」より引用)
本書では、教材教具を活用した数多くの実践を踏まえながら、子供の発達段階に沿った適切な指導の方法について、分かりやすく紹介しています。そして、「言葉に至る学び」「教材教具の多目的性」「設定と働きかけの系統性」「弁別や分類の系統性」「模倣や社会性を育てる」「言葉につなぐ」「数を数える」「単語を構成する」「発達の不均衡さに働きかける」「気になる行動への対応」の10章から構成されています。
子供の状態像を整理する
第1章では、子供の発達評価として、「太田ステージ評価」を紹介しています。子供の指導にかかわる関係者の共通理解が容易なように、感覚運動から概念形成までの時期を各ステージに分けて、子供の状態像を整理しています。第2章以下は、この「太田ステージ評価」の各発達段階に応じた教材教具を具体的に紹介しています。
多様な提示と工夫
第2章で紹介している「棒さし」と「はめ板」は、多くの学校にあるシンプルな教材ですが、この教材に焦点をあて、各段階の子供に応じた教材の提示や工夫について分かりやすく述べています。「棒さし」という教材ひとつで、「抜く・さす」という学習、「対人関係の構築」、「数の合成分解」など、多くの活用の工夫ができることを紹介しています。
第四章では、「弁別」と「分類」の系統的な学習の進め方について、教材の選定や、見本項・選択項の設定などを具体的に紹介しています。
各章では「できる課題から始め、できる課題で終わる」「表出を妨げない支援」など、学習を行う上で留意するポイントやかかわり方の姿勢についてもふれていて参考になります。
子供の努力を支える
第10章では、各ステージにおける事例や支援の考え方が具体的に紹介されています。子供たちの気になる行動への指導のヒントが得られるでしょう。
本書の中で述べられている「教材はほんの少しの手がかりであり、学びの主体である子供の努力を支えるもの」という著者の言葉は、肢体不自由教育の原点に立ち返らせてくれます。
(筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭 大塚 恵)
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