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指導・援助の基礎・基本
障害のある子供のコミュニケーション

林 友三 著
 

B5判 233ページ

本体価格 2,400円 ジアース教育新社

 著者の林友三先生は、東京都の肢体不自由養護学校(当時)で指導に携わり、指導主事を経て一〇年間校長として務められました。その間、常に子供に向かい合い、子供から学ぶという姿勢を貫かれました。

子供から学ぶ

 林先生は常にこの姿勢でいらっしゃいます。そのためには、「支援者が子供から学べるだけの学力(すなわち、指導・援助の力量)を身につけている必要がある」とおっしゃっています。本書は、「教育の主役は子供」とおっしゃる先生の厳しく優しい教育観、子供観、人間観がにじみ出た書籍です。平易な文章表現でとても読みやすく書かれています。

「コミュニケーション」とは

 本書は、手作り教材・教具による学習でのコミュニケーションの指導・援助を中心に、その基礎・基本が書かれています。

 例えば、「学校生活にはコミュニケーションの大事な場面がいっぱいある」「子供が応じられるように働きかけることからコミュニケーションは始まる」とあります。

 しかし、「子供に『働きかけても応じない、反応しない』とき、それは障害が重いからだとか、子供の側に問題があるのだと考えるのではなくて、働きかけ方に問題があると考えます。」と、大人側の未熟さにこそ子供のコミュニケーション不成立をもたらす要因がある、と述べられています。

教材・教具の役割と目標設定

 教材の役割はたくさんありますが、その一つとして、コミュニケーションの道具という考え方が述べてあり、子供が教材を使用する時の「目の使い方、手の使い方、目と手の協応の発達」という基本的な事項の解説があります。

 指導を行う際に、「実態把握、目標設定、指導の実際、評価」の過程があります。本書では、次の四つに分けて目標を設定することが望ましいと述べられています。

① できることを伸ばす目標

② できることを定着させる目標

③ できることを引き出す目標

④ できることを発見する目標

 これらを参考にすることにより、実践的な指導方法を見つけることができるでしょう。

日常の記事の中から

 「一口メモ」の章では、新聞や書物、林先生が書かれた学校便りの中の文章などから、「コミュニケーションの指導・援助の考え方」に関連したものを取り上げています。「イチロー選手の母親が作ったカレーライス」「しゃべりすぎ(小堺一機さんへの萩本欽一さんのアドバイス)」「十秒間待つ効果」など、興味をひかれることが紹介されています。

 本書の入門編として、林先生の著作である「指導・援助の入門 障害のある子供のコミュニケーション」(ジアース教育新社)が既に発刊されていますので、合わせてご一読を薦めます。

(千葉県立袖ケ浦特別支援学校 尾ア 美惠子)