Ⅰ 基礎・基本の網羅
本書は「肢体不自由教育及び重複障害教育を担当する教員が指導をするに際に基本的に備えてほしい知識や情報等を提供することを意図……」(「はじめに」より)した本であり、特別支援教育(肢体不自由を中心)の基礎・基本が網羅されています。
Ⅱ 各章の概要
本書の六つの章の概要は次のとおりです。
第1章 肢体不自由教育の基礎的理解
肢体不自由教育の現状と課題及び教育課程の基準等の解説
第2章 肢体不自由児の発達と指導
医学的な知識を踏まえた健康管理と指導、情緒・人間関係、認知、運動・動作、コミュニケーション、読み・書き・数のそれぞれの発達と指導の解説
第3章 各教科の指導の在り方と実践例
各教科の指導の在り方及び国語科、算数・数学科、体育科の指導の解説と実践例の紹介
第4章 自立活動の指導の在り方と実践例
自立活動の指導の在り方及び身体の動き、コミュニケーションの指導の解説と実践例の紹介
第5章 重複障害者の指導の在り方と実践例
重複障害者の指導の在り方及び国語科、自立活動を主とした指導の解説と実践例の紹介
第6章 肢体不自由教育の歴史と未来
肢体不自由教育の歩み及び歴史から学ぶもの、特別支援教育の成立と最近の動向等の解説
Ⅲ 興味・関心を覚えた事項
筆者が本書を通読して興味・関心を覚えたことは次の事項です。
(1) 各章・節は、現在の特別支援教育の実践や研究の第一人者が分担執筆していて、各執筆者の持ち味が生かされています。
(2) 各執筆者は、自分の確かな考え方をもっているので各章を越えて、異なる執筆者の同じ見出しの内容を読み比べることも理解を深めるのに役立ちます。例えば、第4章の自立活動の指導と実践と第5章第3節の自立活動を主とした指導及び各章・節の実態把握に係わる文章を読み比べることです。
執筆者によって、自立活動や実態把握のとらえ方、用語の使い方に違いがありますが、その分、総合的でより深い知識・技能等を学ぶことができると思われます。
(3) 各章・節の文末には、引用・参考文献が延べ131冊紹介されており、読者が自己の関心のある分野の実践や研究を一層深めるために役立つと思われます。
(4) 第1章の現状と課題や第6章の歴史と未来の記述内容は、特別支援教育の教職員にとっては、基礎的な教養の一つとして習得することが望ましいと考えています。
Ⅳ 本書はヒント集
本書は、特別支援教育(肢体不自由教育を中心)の指導に係わるヒント集で、実際の指導の過程で具体化し生かすことは、各教職員の工夫次第といえます。このような意味で、本書は新任者の入門書としてはもちろんのこと、経験者の知識等を整理しなおす書籍としても役立つと考えられます。ぜひ精読することを薦めたい一冊です。
(元東京都立北養護学校長 林 友三)
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