一人一人の児童生徒のアイデンティティの形成
「手が自由にきかないので、自分で自分がいやになって、手を包丁で切ってしまいたいと思いました」という高校3年生の脳性まひのお子さん。こういった「子ども達の悩みや不安にどう答えるか、子ども達の願いに実現可能な道筋をどうつけるかは重い課題でした。」と、本書の編著者の飯野順子先生は、書かれています。わずか五歳の子どもが他の子どもと自分を比べて「できない自分」が分かり、落ち込んでいく様子を目の当たりにして、肯定的な自己像が形成できる学びの場を提供する必要性を感じたとおっしゃっています。
このように、「学校時代は、子ども達が一人一人のアイデンティティを形成する時期」であり、「人生の基盤となる学びの力を獲得する時期」です。子ども達が、自己を理解し、自己を価値づけ、自己肯定感を確立できるように支援していくことが「キャリア発達をうながす教育」である、と述べられています。
キャリア発達を視点とした授業づくり
「キャリア教育」というと、何やら難しいもので、新しい概念だと思われがちです。
しかし、「キャリア教育」として提言されたことがらは、これまで肢体不自由教育で追求してきたこと、特に進路指導の基本理念等との重なりの部分があると述べられています。「どんなに障害が重い子どもであっても、価値観・人生観の形成を行うことが、肢体不自由教育の真髄である」と先生がお考えになっていることとの一致が見られる、ということです。
「キャリア教育」の専門家である渡辺三枝子先生(前立教大学大学院教授)が、「キャリアに含まれる3つの意味」として、「時間的流れ」「空間的な広がり」「個別性」をキーワードとされています。それを授業づくりと重ね合わせて考えることが、「キャリア発達をうながす教育」につながります。そして、もっとも大切なことは、「行動の主体が自分である」と子ども自らが気づける授業になるか、ということだと言及されています。
授業をとおして「一つ一つ
の価値を積み上げていく」教育を
本書は、「理論編」と「実践編」で構成されています。
「理論編」では、キャリア教育が導入されてきた経緯や定義、肢体不自由教育におけるキャリア教育の指導内容、授業づくりなどについて解説されています。
「実践編」では、学校内での取組だけでなく、卒業後の取組も紹介されていますので、学校で「今」何を大切にすればよいかを考えるきっかけとなります。
子ども達が自分の未来に夢を描けるような授業を積み重ねたい、と強く思った一冊でした。
(千葉県立袖ケ浦特別支援学校 尾﨑美惠子)
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